もはや聞き慣れた感のあるアナウンスですが、これも誤用です。「お(ご)~できる」は先述の謙譲語「お(ご)~する」の可能形ですので、このダメな例も謙譲表現との混同です。乗客に対しての尊敬語としては間違いです。
オススメ▶「次の電車は通勤快速ですので、当駅ではご乗車になれません」
(112ページより)
しかし、この例に関する梶原さんの指摘には興味深いものがあります。これを誤用と感じない人が増えているのだとか。
ところが、言葉とはおそろしいもので、あまりにもくり返し聞かされているうちに、多くの人が、「ご乗車できません」は客への「尊敬表現」として納得し始めている気配があります(文化庁調査)。
しかし「敬語感覚に敏感な大人」はこういうところで、「できるやつ、できないやつ」と人を判断しますから、正誤の区別をしっかり身体に叩き込んでおくべきです。
(112~113ページより)
「できないやつ」と思われたくもないので、この機会に下の正誤表を確認して、頭に入れておきましょう。
間違えやすい尊敬語 3「先輩は取引先には、一人で行かれるんですか?」
動詞のあとに「れる、られる、される」という尊敬の助動詞を加えると簡単に敬語化できます。便利なので多用されますが、それゆえに誤用も多いようです。
ダメ▶「先輩は取引先には、一人で行かれるんですか?」
「れる、られる」は「尊敬」のほかに「可能、受け身、自発」としても使われます。上の例「行かれる」は、尊敬か可能かがわかりにくい表現です。「れる」「られる」以外の尊敬表現があればそちらを優先します。
アリ▶「先輩は取引先には、一人でお行きになるんですか?」
オススメ▶「先輩は取引先には、一人でいらっしゃるんですか?」
(116ページより)
「一人で行かれるんですか?」と言われて、「まるでおれが一人では行けないみたいじゃないか!」と怒り出す先輩もいるかもしれません。「れる、られる、される」の使いすぎには気をつけましょう。
間違えやすい尊敬語 4「社長が新規計画について申し上げる」
次は、前述の「尊敬語のつくり方 3.」の「特定型」の誤用例です。
ダメ▶「会議では、社長が新規計画について申し上げるから、社員はよく聞くように」
「申し上げる」は「言う」の謙譲語ですので、ダメな例は社長の「話す」という行為を低めて、聞き手である社員を高める表現になってしまっています。
オススメ▶「会議では、社長が新規計画についておっしゃるから、社員はよく聞くように」
(129ページより)
よく使われる特定型尊敬語を、下の表でチェックしておきましょう。
間違えやすい尊敬語 5 尊敬しすぎに注意!
口うるさいだけのウザい上司や尊大でケチばかりつけるお客にも尊敬語を使うのは、仕事や対人関係を円滑にするためです。「尊敬」と「尊敬語」は違うのです。
したがって敬語は、尊敬の念を表現するためだけに使われるとは限りません。
▶「おっしゃりたいことはそれで全部ですね? では、すっきりなさったようですから、お引き取りください」
尊敬語を3つも使っているのに、「早く帰ってほしい、関わりたくない」という気持ちがありありと出ています。関係を遠ざけるために使われているわけです。
尊敬語を過剰に使うのはよくない、と言われるのは、このような敬語の逆効果があるからです。
▶「とても上品にお召し上がりになられましたですね」
もてなしたお客に対しての、とても丁寧な表現ですが、「せっかくつくったのに箸をちょっとつけただけ。ほんと、失礼なやつ!」と嫌味を言っているともとれますね。
上の2つの例は、文法的には誤用ではありませんが、過剰な敬語表現はかえって相手を不快にさせることもあります。「尊敬しすぎ」には要注意です。
(100~101ページより)
以上、5つの間違えやすい敬語表現を見てきましたが、「敬語は『基本』さえ押さえておけば、決してむずかしくありません」と梶原さん。本書で苦手意識を払しょくして、好感度アップを目指しましょう!