わかりやすく「論理的」に説明してくださる、深沢氏

勉強としての数学と、数字を使って話すことは違う

――ところで、深沢さんが教えていらっしゃる、「ビジネス数学」とは、具体的にどういったものですか?

「ビジネス数学」とはビジネスパーソンを対象とした教育プログラムでして、多くの企業で社員研修など人材教育のツールとして活用されています。具体的には、3つのことができるようになる教育プログラムです。

1つ目は、今回の本のテーマでもあった、論理的に考えられるようになること。

2つ目は、単に論理的に考えられるだけではなくて、数字でものを考えられるようになりましょうということ。これは1つ目と似ているんですが、ちょっと違うんです。たとえば、「日本のメガネ市場って大体、規模はどれくらい?」というテーマを数字で捉えていくというのが、数字を使って考えるということです。

最後の3つ目は、数学的に問題を解決しましょうというもの。たとえば、統計学がまさにそうです。○○分析を使って5年後を予測してみましょうとか、データのばらつきを分析してみましょうなんていうのが数学的な問題解決です。

以上の3つが鍛えられる、できるようになるというのが、ビジネス数学です。

――企業研修をされている中で、ビジネスパーソンにはどういう課題が多いと感じていらっしゃいますか?

そうですね……、2つあります。

1つは「数字が嫌い」と思い込んでいる人が多いこと。“思い込んでいる”というのが大きな課題で、これはもうハートの問題になってくるんです。だからそのメンタルブロックを壊す、といった作業が必要になってきます。

もう1つは、数字を使ってしゃべるということができないビジネスパーソンが多いことです。数学的に考えるとか、数学の問題を解くとか、そういうテーマがお好きな方も少なからずいるんですが、そういう人でもそれをわかりやすく相手に伝え、説得することは意外にも苦手なようです。

研修では、主にこの2つを解決するお手伝いをしています。

数学は「言葉の学問」!?

――「考える」ということが苦手な人が陥りがちな、つまずきはありますか?
 

考えることが苦手な人の多くは、「どうしようかな。うーん。どうなんだろう」と悩むことを「考えること」だと思ってしまっているんです。でもこれって、本人は考えているつもりでも実は考えてないんです。

「考える」というのは先ほども言ったように、スタートとゴールがあって、結論に向かって直線的に進んでいくことなので、結論に向かわず「うーん……」と言ってグルグル回っていては、考えていることにはなりません。

――スタートとゴールをきちんと設定し、それから考えるということが大切なんですね。

そうです。私がサラリーマンをしていたときは、会議の初めに、「これが今日の会議の定義とゴールです。このゴールに1時間でたどり着きます。みなさんもこれを常に意識して発言してください」ということを伝えていました。すると、余計なことを言わなくなる。「そういえばさー、今思いついたんだけどさ」なんて発言がなくなります。

全員がゴールに向かってちゃんと頭を使うようになる。これが正しく「考える」ということです。

――なるほど。そのほかにも、「考える」のために、まずここから変えましょう、というポイントはありますか?

いっぱいあるのですが……一言で言うと、先ほどもお話しした「言葉」。これが重要です。
私は数学というのは、ちょっと極論ですが「言葉の学問」だと考えています。みなさん、計算とか数字の学問だと思っているんですが、そうじゃなくて数学は「言葉の学問」です。なぜかというと、先ほどもお話した「論理言葉」を使わないと、数学の問題は解決できないようになっているからです。

実際、数学的に考えるときには「“まず”○○を証明しましょう、“なぜなら”○○だからです」というように、ポイントになるところで「論理言葉」が必ず登場します。だから数学というのは「論理言葉の学問」なんです。

話し始めと、途中の「確認」がキモとなる。

――意外なお答えでした。国語的なことがポイントなのですね。今のお話に関連しまして、ビジネスパーソンにとって必要不可欠な、毎日の会話やプレゼン等で使える、「何が言いたいの?」「説得力がないよ」と言われないための、「論理的な話し方」を教えていただけますか?

そうですね……、今までお話した「接続詞が大事ですよ」ということ以外では、「今から話す内容はこういうことですよ」と、最初に相手に伝えることですね。それを言われてから聞くのと、言われないで唐突に話し始められるのでは、聞き手としては理解度が全然違うんです。

まず、自分が何を話すのかを定義し、話す内容が10あったとしたら3ぐらいで1回、「ここまでを整理しますと」とまとめます。1分もかからないぐらいのまとめでいいので、「ここまで話した内容ってこういうことでしたよね」という確認を取ります。そして、「ここまでの内容に何か問題はありますか」「ここまでは間違いありませんか」と確認をします。

――お互いの受け取り方に違いがないか確認するんですね。

そうです。「ここまではどうですか? 大丈夫ですか?」と確認して、「大丈夫です」と理解を得られたら、「じゃあ先に進みましょう」と話を進めていきます。そしてまた、3分の1ぐらい話が進んだら確認を取る。……あんまりしつこいと駄目ですけどね(笑)。うまくバランスをとりながら確認を取り合うことで、会話している2人が同じ歩幅で、同じペースで進むことができます。

これをしないと、話し手はわかりやすく丁寧に話しているつもりでも、聞き手は一生懸命追いかけるだけの状態になってしまいます。人の話を聞くって、結構大変なことなんです。ちょっと進んだら待ってあげて、大丈夫かと確認してあげる。これは私が常日頃からやっていることで、その結果、説明がわかりやすいですね、なんてフィードバックをもらっています。