松浦:いまだから言えるんですけれども、食に関わる編集者のほとんどは、必ずどこかのタイミングでクックパッドを見ていますよ。クックパッドの何を見ているかというと、ランキング。

クックパッドのランキングを見て、今こういうものに興味をもっている人が多いんだなとか、あれも一つのデータ分析ですね。検索で出てくるランキングって価値がありますよね。

中村:ありがとうございます。そうですね。商品やお店は、年齢や地域によって、買って頂きたい対象者が変わってくると思うので、それに対応する形で実際に使っていただくということができるようにしています。

松浦:使いこなせば使いこなすほど、どんどん深堀りができるというか、確かめる深さが変わってくるということですね。日々、たべみるを観測する場合、何かをルーティーンで見ていくと、面白さが増したりしますか?

中村:そうですね。先ほどご覧いただいた、ログインに表示される注目キーワードでしょうか。週単位だと、1位や2位はあまり変わらないんですが、テレビにとりあげられるなどしたものは、それが急にランクインしたりします。

松浦:検索の上昇のきっかけは、テレビの影響が大きいですか?

中村:テレビは大きいですね。普段そんなに検索されていないものであればあるほど、一気に順位があがります。
最近だと、ココナッツオイルとか。あれもブームのなりはじめにテレビで紹介され、一気に検索が増えました。

今から数時間後の未来がわかる!

松浦:本の中でたべみるのデータから、数時間後の未来がわかると書かれているのですが、これはどういう意味ですか?

中村:クックパッドが使われる時間帯は、夕ご飯前と、お仕事が終わって帰宅している途中が多いんです。なので、仕事が終わって、スーパーに行って、今日は何を食べようかな? というときにクックパッドは利用されている。そして、買い物をして料理ができるまでに数時間かかるので、ここで検索したものが、数時間後に食卓に並んでいる。そのデータを見ることができるのがたべみるだと考えています。

松浦:つまり、たべみるで出てきたキーワードは未来というよりも、いま以降ということなんですね。

中村:そうですね。あと、毎日作りなれているものって、調べないと思うので、料理を調べるのは「はじめて何かをするとき」だと思うんです。そうすると、はじめてのデータが集まるということは、そのデータが示すものは、これから流行するかもしれませんよね。そういう意味で、近い未来が見えるといった書き方をしています。

松浦:検索データというのは、いわゆるユーザーや消費者のニーズであると書かれているんですが、このことにまつわるエピソードはありますか?

中村:そうですね、たとえば「ダイエット」って毎年、同じ時期に検索されていて、みなさんがご想像されるように夏前が多いのですが、さらにそれよりも多いタイミングがあって、それは1月5日。
年末年始に飲み会があって、おせちを食べたり……そして、さあ今年こそやせるぞ!という、タイミングなのでしょうね(笑)。

松浦:なるほど(笑)。みなさんご存じでしたか? ダイエットの検索が一番多い時期というのが1月5日。これはだれも想像していなかったんじゃないですか?

中村:雑誌社とかメディアだと、このタイミングでダイエット特集とかされると良いですよね。

松浦:冬の号でダイエットというのは中々、思いつかないです。
このように生活者の方のニーズが見えてくるわけなんですけども、「たべみるのここを見ておけば、確実にニーズをおさえることができる」というポイントってありますか?

中村:キーワードを毎日見るのも大切なのですが、見ていて面白いと思うのは、ランキングの中の「その他」。そこには「かんたん」とか「フライパン」とか「炊飯器」などが入っています。こんなのも検索してるんだというのがわかるのは面白いですね。

松浦:「その他」を見るのって、楽しいですね。

中村:そうですね、実は「その他」に分類される検索自体が増えているんです。「ふわふわ」「がっつり」といったニュアンスの言葉などがその例ですね。

「たべみる」のデータは、新しい「面白い」につながる

松浦:思いもよらない言葉で検索されていて、人って面白いですね。
クックパッドにある膨大なデータに新しい価値を見出したのが中村さんだと思うんですけれども、たべみるを使われる方に向けては、その価値をどう伝えていますか?

中村:1番は、たべみるのデータって面白いんだということを伝える。
食品関係の方とお話をしていると、真面目で、食べることが好きな方が多い業界で、そういう方々に、このデータって面白いでしょということを伝えるのが入口です。何か面白いことを始めるきっかけとして使っていただければいいのかなと。

松浦:私は「暮らしの手帖」という雑誌の編集長をおよそ9年間務めましたが、雑誌を作っていると正しいことや確かなことを真面目に伝えればいいと思うときがあるんですけれども、そういうものってたいてい部数が伸びなかったりするんですよね。

何が大事かというと、人が求めているもの。
だから、どんな仕事で何を表現するにしても、それを読者やユーザーが面白いと思うかどうかが大切ですよね。それが、一つのサービスとしての新しい価値なのかなと思います。

中村さんはデータ分析の畑で、10年仕事をされてきています。データの役割とか、面白さってなんですか? データって事実じゃないですか? だから、良いことだらけじゃないですよね。

中村:データっていうのは、事業が飛行機だとしたら、滑走路のようなものかなと。長ければ長いほど、上手く遠くに飛行機を飛ばせる。最後は飛行機を飛ばすことが滑走路の目的なので、飛ばせることができなければ意味がないかなと思います。

なので、仕事を進める上で都合が悪いデータもあるとは思いますが、データは切り取り方によって、結果が変わってくるものですし、データでわかることには限界があるので、それだけを過度に信じすぎないことが大事だと思います。

松浦:中村さんもデータを疑うことってあるんですか?

中村:疑うほうが多いですね。疑わないとそれが真実だと思ってはまってしまいます。集計などで間違いがあっても、思い込むと間違いに気づかないので、こういう結果になるんだろうなと見当をつけながらも、疑いながらデータは見ていますね。

松浦:データは飛行機を飛ばすための大切なものであり、かつデータだけじゃないというバランス感覚も持ったほうが良いということなんですね。

中村:それがないと、あんまり人間が仕事をする意味がないのかなと……。データで決めるだけでいいのであれば、ロボットがすればいいわけですし。