現代のビジネスリーダーたちは、不確実で複雑な状況の矢面に立ち、様々なビジネス課題を解決することが求められています。そのような状況においては、キャリアの中で築いてきた専門知識が役に立たないケースも多いでしょう。
そんなときに感じてしまうのが「知らないことへの恐怖」です。
自分がその問題について「知らない」ということが露呈したとき、部下や周囲はどう反応するだろうか。信用を失ってしまうのではないか。「無能」の烙印を押され、職を失う可能性さえある。自分は弱く、不完全だが、「知らない」ことを認めるべきではない……。
「完璧な人間などいない」とわかってはいても、周囲から頼られ、期待されるリーダーほど、大きなプレッシャーを感じているでしょう。
「知っていること」は「いいこと」か?
リーダーシップや組織戦略を専門とする気鋭のコンサルタント、スティーブン・デスーザとダイアナ・レナーは、著書『無知の技法 Not Knowing』(以下同書)のなかで以下のように述べています。
何かを知りたいとき、それを「知らない(not knowing)」ままでいる状態はつらい。(……)曖昧な状況、不透明な状況は、私たちに無力感を抱かせる。恥ずかしくうしろめたい気持ちにさせる。
自分の知識がおよぶ範囲ぎりぎりの境界線に立たされると、私たちは既存の知識にしがみつくか、手っ取り早い解決を試みるか、あるいは状況そのものをそっくり投げようとする。
(同書「はじめに」より)
人間は予測のつかないものを避け、確実なものを好みます。「知っていること」は「いいこと」であり、知識を多く得ることで私たちは安心するのです。
しかしこの世界は、十分に複雑であるばかりでなく、常に変容し続けるものです。既知の知識や手法は、すぐに通用しなくなる宿命にあると考えておかなければ、「知らない」状況を眼前にしたときに、無力感を覚えるか、その場から逃げだすかしか、方法はありません。
2人の著者は、世界中で未知と相対した多くの人たちのエピソードをもとに、人間と「知らない(Not Knowing)」ということとの関係をもっとポジティブに変える方法を探り、提示しています。それは、「知らない」状況に向き合い、挑戦し、学ぶ、能動的なプロセスです。
ここでは、本書のエッセンスを読者に伝えるために、本書に登場するいくつかのエピソードに言及したあと、2人が提案する、「知らない」ことをポジティブに捉えるための思考アプローチ法の一端を紹介しましょう。
少数の専門家に対する盲信──なぜ、リーマンショックは予測できなかったのか
私たちは不透明な状況に直面すると、たとえ答えを知らなくても、知っているふりをする誘惑にかられます。あるいは、自分で判断することを放棄し、その分野における専門家ならすべてを知っていると思い込み、偽りの確信に依存することを選びます。
経済界における次の有名なエピソードは、そのことを端的にあらわしています。