小売店を取引先に持つメーカーや卸売会社の営業担当者としては、このような役に立つ販促情報を売場に届けたいもの。「たべみるLite」のような事例は、企業に蓄積されたビッグデータを小売りの現場に提供する有効な方法として、一読に値するのではないでしょうか。
データが利用されるための3つの要素
どんなに素晴らしいデータも使われなければ意味がありません。中村氏は、「たべみる」を誰にでもすぐに使えるものにするために特に意識した点として、次の3つをあげています。
1. 信頼できると感じられるデータであること
この点について中村氏は、「データソースとして信頼できるものを使っているか」ということ以上に、「利用者の感触に合うデータであるかどうか」という観点を重視した、と強調しています。つまり、単純にデータを集計するのではなく、利用者の気持ちを考えてデータを扱うということ。一例をあげましょう。
クックパッドのユーザーがほうれん草を検索するとき、「ほうれん草」と入力するとは限りません。「法連草」、あるいは「菠薐草」と入力する人もいるでしょう。このように検索キーワードは自由に入力されたテキスト情報なので、コンピューターはなにもしなければこれらを別のワードとして認識し集計してしまいます。データを分析する人は、こうしたことを考慮に入れなければなりませんので、意味のあるデータにするためにはひと手間かけなければなりません。
「たべみる」ではこのような扱いにくさを防ぐため、クックパッドが独自に充実させてきた類義語辞書を使い、検索用語の漢字・かなの混在や表記ゆれをまとめて集計し、さらには語意の近接にも配慮して、利用者に違和感のない結果を提供できるようにしているそうです。
2. 知りたいことがわかりやすく表現されていること
「たべみる」が目指しているのは「データ分析に慣れていない人もすぐに実務に役立てられる」ことだという中村氏。担当者にできるだけストレスを与えないために、そのまま社内資料などに使えるようなデータ表現を心がけているそうです。
3. いつでも気軽に利用できること
「たべみる」は、ウェブブラウザとインターネット環境があればいつでも、どこからでも利用できるサービスです。さらに中村氏は、「日々の営業現場で活躍する人たちが気軽に使えるツールでありたい」と考えているため、ユーザビリティを重視し、サービスを利用する際の応答速度をおおむね0.5秒以内に保っているとのこと。他社のデータ分析ツールは数秒以上かかるものがほとんどで、「たべみる」をはじめて操作した人はその反応の速さに驚くのだとか。
本書にはここで紹介した以外にも、食品メーカーや卸売会社が「たべみる」を商品開発や販売促進に活用した実例が登場します。また「たべみる」の、リニューアルにいたった経緯や、ビッグデータの活用法や提供のしかたは、データ分析やマーケティングの担当者のみならず、プロジェクトを動かさなければならないすべてのビジネスパーソンの参考になる、生きた事例でもあります。