「価値の軸」を見出すためには、さまざまな事象をロジカルに分析する力が必要不可欠です。このロジカルシンキングの力は、あるテーマに関する意見をまとめたり、他人とディベートしたり、理詰めで説明したりすることを重ねていくうちに、徐々に獲得できるものです。
読書は、著者が提示するロジックを理解しようと努める行為にほかなりません。たとえば、大前研一さんの本を読むことで、ある事象に対する大前さんの論理そのものと、論理の展開の仕方や分析手法を学ぶことができます。つまり、読書によっていろいろな著者の論理に触れることが、ロジックする力を高めてくれるのです。
3.「シミュレーションする力」を磨く読書──つねに先のことを考える
シミュレーションする力というのは、ある事象を理解するとき、自分のアタマのなかでモデルをつくって、試行錯誤しながら、類推し、確かめていく能力といえます。教科で言えば理科に相当します。
世の中には「勘がいい」と言われる人がいます。予測がよく当たったりするためにそう言われるのですが、じつはそういう人は、この能力が高い。つねに先、先を考えて行動するから予測が当たる確率が高くなるのです。
自然科学系の本は、この世界に存在するさまざまな事象から未来を予測するヒントを提供してくれますし、また、SFや推理小説は思考の枠を広げ、大胆な仮説を立てたり、予測をしたりする力にもなります。
4.「ロールプレイングする力」を磨く読書──他者の視点を獲得する
ロールプレイングと言っても決して難しいことではなく、たとえば、ママゴトも立派なロールプレイです。子どもが母親の役割を演じることでその立場を理解し、家族のなかでの自分の位置を確認します。このような、他者の立場に立ってその思考を想像する技術は、「社会」という複雑な世界を整理して考えることに役立ちます。
そして社会に出たとき、あらためてこうした技術の必要性に気づきます。たとえば接客業では、お客さんの立場に立って物事を考えなければいい仕事はできません。テレビのディレクターが視聴者をロールプレイできなければ、高視聴率など望むべくもないでしょう。
ロールプレイングによって他者の視点を獲得できると、考え方の幅が広がり思考が柔軟になります。この力は、良質なノンフィクションや伝記を読むことで磨くことができます。
歴史上重要な事件の登場人物の行動や思考を疑似体験する。限られた時間のなかで、自分以外の人生を生きることができるのも読書の醍醐味なのです。
5.「プレゼンテーションする力」を磨く読書──相手の脳に自分の脳のかけらをつなげる
自分の考えを他人にもわかるように表現する技術は、さまざまな考え方が共存する社会においては必須のリテラシーです。それにはまず、他者をイメージすることが必要です。さらにその他者は、自分とは違う、十人十色の世界観を持っていることを理解していなければなりません。
プレゼンテーションする力とは「相手の脳に自分の脳のかけらをつなげること」といえます。つなげるためには、表現の仕方を、できるだけ相手が親近感を持てるものにすることです。その際、イマジネーションが豊かであればあるほど、より多くの人とつながることができます。
そうしたイマジネーション、表現力も読書によって養われます。ちなみに、プレゼンの機会が圧倒的に多いテレビやゲーム業界の逸材はみな乱読家だそうです。さまざまな読書体験が、彼らのイマジネーションを特別なものにしているのかもしれません。
「クリティカル・シンキング」の重要性
さらに藤原さんは、「クリティカル・シンキング」も、読書によって身につけることができる重要なスキルである、と述べています。クリティカル・シンキングは、物事を短絡的なパターン認識でとらえず多面的に理解する方法で、藤原さんは独自に「複眼思考」と訳しています。
たとえば、テレビのニュースキャスターの言葉を鵜呑みにせず、「何か裏の事情があるのではないか」と考えてみる。新聞も、各社の論調を無条件に受け入れるのではなく多面的に検討する。そのような姿勢を持つことで自分の考えに厚みが出て、意見に説得力を持たせることができます。
多様な識者の考えに読書を通して接し、それを咀嚼することを続けていけば、自分の意見がどんどんブラッシュアップ(進化)していくのが実感できるでしょう。
読書好きでも、あわただしい日々のなかで、読書という行為の優先順位がいつのまにか下がってしまうことがあります。通勤電車の中で、ついついスマホを手にしてしまうことも。
『本を読む人だけが手にするもの』は、そんな気分をふたたび読書に向かわせる、「本を読むための本」ともいえます。