「本は読んだほうがいい」と、私たちは親や先生から教えられてきました。しかし、たとえば自分の子どもから「どうして本を読まなければいけないの?」と正面から質問されたとき、理路整然と説明する自信がある人は、そう多くはないでしょう。

300冊読んだら自分のなかから言葉があふれだしてきた!

「よのなか科」シリーズ(筑摩書房)や『坂の上の坂』(ポプラ社)、『35歳の教科書』(幻冬舎)など数多くのベストセラーを生み出したほか、東京都の義務教育では初めて民間出身者として校長を務めたことでも知られている、リクルート出身の“教育改革実践家”・藤原和博さん。意外にも、藤原さんは高校生まではまったく本を読まない子供だったそうです(そうなった原因は、学校の課題図書だったヘルマン・ヘッセの『車輪の下』とルナールの『にんじん』がまったく面白くなかったから、とのこと)。

ところがリクルートでの営業マン時代、知人のある社長さんのすすめによって宮本輝と連城三紀彦の作品に魅了されて以来読書に目覚め、さらに33歳のとき、出版社「メディアファクトリー」の立ち上げの際に、必要に迫られ1年に100冊以上の本を読むことを自らに課しました。そしてそれを3年続けたとき、つまり300冊を超えたあたりから、「自分のなかから言葉があふれだすようになった」そうです。

新刊『本を読む人だけが手にするもの』は、そんな藤原さんが自らの読書体験を振り返りながら、冒頭にあげた「なぜ本を読むといいのか」という問い、いわば「読書の本質」を、真正面から取り上げている本。「本を読んだ方がいいのはわかっているけれど……」という人にとっても、読書の価値を再認識させてくれる本です。

読書によって磨かれる5つの力

藤原さんはこの本のなかで、「成熟社会で求められるのは情報編集力である」と、くり返し述べています。これは、従来重視されてきた、“正解”を早く当てる力である「情報処理力」とは異なるスキルで、「身につけた知識や技術を組み合わせて“納得解”を導き出す力」と言えます(133ページ)。

また、この情報編集力を高めるためには、次の5つのリテラシーを磨くことが重要。それは読書によっても高めることができるそうです。

情報編集力を高める5つのリテラシー

1.コミュニケーションする力
2.ロジックする力
3.シミュレーションする力
4.ロールプレイングする力
5.プレゼンテーションする力

本書の第4章「正解のない時代を切り拓く読書」参考に、それぞれ説明していきましょう。

1.「コミュニケーションする力」を磨く読書──ジャンルを問わず本に向き合う

コミュニケーションする力とは、「異なる考えを持つ他者と交流しながら自分を成長させる技術」といえます。そのためにまず必要なのは、人の話をよく聴くこと。それにより自分の考えが進化し、相手に共感を寄せることもできる。聴くことができなければ、自分のことを相手に伝えることもできません。

また、人は、話を聴いてくれる相手のことは信用し、とっておきのネタを伝えたいと思うもの。結果として情報収集能力も高まります。

読書によっても、この「人の話をよく聴く技術」は高めることができます。それには、先入観なしにどんなジャンルの本にも素直に向き合う「乱読」が有効。もちろん、コミュニケーションを円滑にしてくれる雑談に必要な、多様な知識も増やすことができます。

2.「ロジックする力」を磨く読書──著者の論理を理解する

社会にはさまざまな価値観が共存しています。そのなかで生きていくには、他人の納得解を理解し、また、自分の納得解を他人に理解してもらわなければなりません。その時に自分なりの「価値の軸」を持っていないと、行動や思考に筋が通らずブレてしまうことになります。