アダム・スミス、ケインズからピケティにいたる経済思想を概説し、資本主義や世界経済についてより深く考える礎を提供する書籍、『世界を読み解く経済思想の授業』(田中修著)。
なぜ、いま、経済思想なのか? 担当編集者が、本書のねらいを解説します。
(文:日本実業出版社編集部)
世界を読み解く土台となる経済思想
経済学は私たちの暮らしに直結する問題――物価、税金、格差……などを解決する学問であり、経済理論にはその土壌となる経済思想があります。経済思想が私たちの暮らし(ビジネス)から生まれたということを考えれば、本来その知識は最も必要なリベラルアーツ(教養・知恵)と言えます。
リベラルアーツとは、それをもとに自らが考え抜く基礎となる土台です。経済思想の流れを押えておくことは、その思想がどういう文脈で生まれ、どのように育ち、いかなる政策として実現しているかを知ることです。
世俗の思想としての経済思想
経済思想が一部の専門家や経済問題をネタとする好事家の占有物となっている現状を少しでも変えたいというのが、本書を企画したきっかけです。現在、大学教育改革の動きは拙速とも言えるほど急に見えます。全国大学のローカル/グローバルへの再編(いわゆるL・G大学)では、人文学、古典、文学など、従来の教養の中心となっていた学問、知識の軽視が見られます。
しかし、本書で繰り返し説かれているように、そうした教養、倫理や思想の軽視が、主流派経済学とその経済政策の失敗を生んだというのが著者の見解です。また、アメリカの経済思想史の大家、ロバート・ハイルブローナーによると、経済学者とは「世俗の思想家」ということになります。人々(世俗)の様々な考え方もまた思想を形成し、それが時代や地域ごとの思潮を生み出すという面があります。その意味で、経済思想は時代を読む格好の素材となります。
人間は経済思想の奴隷
ケインズは主著『雇用、利子および貨幣の一般理論』のなかで次のように述べています。