2015年7月8日、ビジネス評論家であり『合理的なのに愚かな戦略』(日本実業出版社)の著者、ルディー和子氏の講演会が開催されました。テーマは「変化の時代に生き残る企業とは?」。
この講演会は巣鴨信用金庫(東京都豊島区)の役員・管理職研修プログラムの一環として行われたものですが、ここではその一部を、前・後編に分けてお届けします。
(協力:巣鴨信用金庫 文責:日本実業出版社)
大企業からイノベーションが生まれない理由【ルディー和子講演から:前編】からつづく
【後編】
もう一つ紹介したい事例があります。
皆さんよく御存じの扇風機の事例です。1813年に発明されて以来、扇風機は量産化され、改良に次ぐ改良を重ね、コモディティ化して1万円以下で売っているような状況になっていたときに、突如ダイソンが2009年、羽根のない「エアマルチプライヤー」を発売しました。
しかもこれに3万円という高価格をつけましたが、日本の消費者は喜んで買った。当時日本のメーカーは、「なんでこういうアイデアが浮かばないんだ」と批判されました。
しかし実は、1981年に東芝が同じようなアイデアで特許を取っていたんです。なぜつくらなかったのか。
東芝はこの件に関してまったくコメントしていないので真相はわかりませんが、「音がうるさいとか、内部にホコリがたまりやすいという構造上の問題があり、完璧を求める日本の消費者からの苦情をおそれてリスクを取りたくなかったのではないか」など、ネットを中心にさまざまなことが言われました。
それは確かにありえるかも知れない、と思います。なぜなら、すでに大企業だった東芝からすれば、扇風機ごときで売れたって全体から見れば大したことはない。むしろ、そこでなにか問題が起きそうなリスクは取りたくない。かたやダイソンは小さい企業で、失うものも少ない。だからリスクを取りやすい。
このように、大企業あるいは歴史のある企業というのは、イノベーションよりも、リスクを伴わない「改善」を志向する傾向が強いということが言えます。歴史、年月はある意味おそろしい。積み重ねてきた年月の重みは、リスクを避ける大きな要因になります。
「変化」は「リスク」を伴う
私たちは、変化することによって新しくなった環境において、自分が利得を得るか、損失をこうむるのかを、事前に知ることはできません。したがってどのように決断、行動するか迷います。迷った挙句、論理的、確率的に考えれば少しばかりのリスクを取る方が妥当な場合でも、リスクを必要以上に避ける選択をしてしまいます。