1. の「前例と実績重視」と2. の「やらないリスクが論じられることはない」。ここに当てはまるということは、結局は変わりたくないということです。こういう会社には、3. のように新しいことを「できない理由」を滔々と述べる社員が多い。変化したくない、ということの現れです。
4.「大量のCCメール」からは、「リスクをとりたくない」という本心が窺えます。いろんな人にCCを送って安心感を得たい。「私が勝手に決めたんじゃないですよ、みんなメールを読んでるじゃないですか。異議がなかったんだから、これで良し、と了解してくれたわけですよね」と、言いたいわけです。
5.「変わった人は迫害される」、6.「誰が担当者かが重要」、7.「言いだしっぺは損をする」。「あなたは変えたいんですね、前例がないのに。ならば、どうぞやってください」とは言うが、何か問題が出てきたり失敗したりすると、「あなたが、責任を取ってください」という話になる。
これらの項目に5点、4点が多くつく会社は、かなり老化が進んでいると言えます。
成功体験は否定できない
2000年頃に、ある世界的調査会社が、世界のグローバルブランドについて調査しました。その報告によると、パナソニックやソニーが作っているAV製品は大変品質がいいが、すでにその品質のレベルは、「消費者がその違いをわからないところまで来ている」「ほとんどの消費者はその違いを必要としていない」と。
したがって「今後は品質を追求するのではなく、デザインなどを重視した、感情に訴えるものをつくるべきだ」と、その報告は言っていました。そうした指摘は当然耳に入っていたはずで、わかっていたはずなんです。それでも品質を極める道を選んだのが、日本の電気メーカーです。
シャープもそうです。とにかく液晶にこだわった。市場が加速的に変化しているのがわかっていたのに、過剰投資を続け、2009年に堺に工場をつくった時にはすでに世界の液晶市場は供給過多で価格も下がっていた、それでもこだわり続けました。その結果、ご存じのように、業績の悪化に大変苦しんでいる。
グローバル化や少子高齢化、国内外の経済格差などの問題が顕在化し、これまでのようなわけには行かないと、みんなだいぶ前からある程度わかっていたはずです。環境の変化は、突然起こったわけではない。ましてや日本の電機メーカーのトップの人たちが、こういう状況をわかっていなかったはずがない。なのになぜ同じことを続け、手を打たなかったのか。
先ほどの、日立の川村元社長は「2009年の5年前にしっかりした対策を打っていれば、あれほどの大赤字を出すことはなかった。わかっていたのになぜ打たなかったのか」と言っています。
また、リストラに関連して、こういう発言もあります。
「今回切り離したテレビや半導体の事業はある時期すごく儲かった。でも捨てる時期を間違えた。そのために生涯収支はみんな赤字です」
「本当はある事業が一時期稼いだ金を、次の投資にまわして新事業を立ち上げ、稼げなくなった事業を捨て去ることができたのが日立の歴史だったはずのに、捨てることができなくなった。捨てなければ新しい事業を始められませんから」
以上のように、過去を否定する、つまり過去に成功したものを捨て去るというのは、必要なことだとわかっていても、人間にとっては非常に難しいことなんですね。シャープの事例も、日立の事例も、それを示しています。
大企業からイノベーションが生まれない理由【ルディー和子講演から:後編】につづく
ルディー和子
ビジネス評論家。立命館大学経営大学院経営管理研究科教授。セブン&アイ・ホールディングス社外監査役。米化粧品会社エスティローダー社マーケティングマネジャー、タイム・インク/タイムライフブックス部門ダイレクトマーケティング本部長を経て、ウィトンアクトン社代表取締役。日本ダイレクトマーケティング学会副会長。著書に『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する』『売り方は類人猿が知っている』(日本経済新聞出版社)、『マーケティングは消費者に勝てるか?』(ダイヤモンド社)ほか多数。