トルコにはトルコ人だけでなくクルド人も多く居住していますし、イラン国内にもトルコ系のアゼルバイジャン人が数多く存在します。また、同じイスラーム教を信奉するアラブ人の中にもスンナ派教徒とシーア派教徒がいますし、キリスト教徒のアラブ人もいます。
このような中東の国々を理解しようとするとき、日本のような単一民族で構成された国家像を当てはめると、実態とかけ離れてしまうので注意が必要です。
中東地域の国々の多くは、第一次世界大戦後に建国されました。それ以前はオスマン帝国がこの地域の大部分を支配していましたが、この帝国は民族や宗教・宗派の違いに比較的寛容でした。そのため、民族や宗教を原因とする紛争もそれほど多くは発生しなかったのですが、この状況を大きく変えたのが、オスマン帝国の崩壊に伴うさまざまな国家の出現です。
当時、イギリス、フランスをはじめとする西洋諸国がそれぞれの思惑をもとに無理やり国境線を引いたため、まとまりが十分でない国家が非常に多く成立してしまいました。内戦状態のシリアやイラク、またパレスチナ問題を抱えるイスラエルなどは、このような例の典型だと言えます。国という単位で中東地域の歴史を見ようとすると、実像をつかむことはできないのです。
現在の中東地域の混乱の原因を知るためには、その「根っこ」の部分がどうなっているのかを理解する必要があります。冒頭で挙げた『歴史図解 中東とイスラーム世界が一気にわかる本』は、長年にわたって高校や大学で学生に世界史を教えてきた宮崎氏が、自身の経験を踏まえて、この地域の歴史をわかりやすく解説した一冊です。興味のある方は、ぜひ一度手に取ってみてください。