日本企業の経営者層が大好きな言葉のひとつに「戦略」があります。企業概要に付き物の「トップからのメッセージ」や新卒採用の応募者向けに書かれたPR文などを見ると、「独創的な戦略に基づき、コア・コンピタンスをフルに発揮して業界にイノベーションを起こす」とか「中長期的な経営戦略を見据え、当社のコアを担える人材を募集しています」などの表現を数多く見かけます。

しかし、「戦略」とは一体どういう意味なのでしょうか? 使う側も受ける側も、言葉の意味を本当に理解して使っているのでしょうか?

乱用される「戦略」

「戦略とは何か?」と問われたとき、あなたはどのように答えますか?「勝つための方法」「目的を達成するまでの道筋」このような回答が多いのではないでしょうか。

一方で「イメージはあるけれど具体的にはわからない」「“手段”や“方法”とあまり意味は違わないのでは?」と思う人もいることでしょう。

よく考えてみると、冒頭にあげた企業トップからのメッセージの類も、具体性に欠けた曖昧なスローガンにも見えます。メッセージの出し手も受け手も、「戦略」という言葉の本当の意味について理解していないため、ともすると空疎なフレーズとして流れてしまいがちです。

「戦略」という言葉は、ビジネスの現場であまりにも乱用されているため、その意味が薄れてしまっているのではないでしょうか。
 

格好だけの言葉じゃない「戦略」

このような状況について、(株)日本総合研究所の主席研究員である手塚貞治氏は、『この一冊ですべてわかる 経営戦略の基本(以下、同書)』という書籍のなかで次のように語っています。

ビジネス世界における「戦略」という用語ほど、いろいろなシーンで氾濫している言葉はありません。「財務戦略」「情報戦略」「営業戦略」「物流戦略」「立地戦略」…等。とりあえず最後に「戦略」とつけさえすればいいのか、と突っ込みを入れたくなるほどです。

一方では、「戦略なんて」とか「現場主義だ!」という声も聞こえてきます。「戦略」という言葉がインフレ化するにつれて、その言葉の輝きは色あせてしまっているのではないでしょうか? では、「戦略」は本当に無用の長物なのでしょうか?

そもそも、本来の意味での「戦略」とは何を指すのでしょうか?

(同書「はじめに」より)

「戦略」は文字通り、本来軍事用語ですが、短期的、局所的な勝利のための手段だけを指すのではありません。さらに高い次元での目的を達成するため、目指すべき方向を定め、取りうるさまざまな手段を包括して効果的に運用するための理論であり、より大きな視点でとらえられるべきものです。

したがって、「経営戦略」とは、市場や政治的環境、取引先や業界、自社の状態などを含めた経営環境を戦場に見立て、その中で企業が高次の目標を達成するための打ち手(手段よりも上位の概念)である、といえます。

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