ジブリに世界観はなかった

阪本セミナー②
セミナーで上映されたスライドより

世界観の話に戻りますが、僕はスタジオジブリのファンでDVDもたくさん持っています。残念ながらジブリは昨年、製作部門を「解体」しました。これは、スタジオジブリというコーポレート・ブランドに世界観がなかったからといえます。もちろん個々の作品にはすばらしい、独自の世界観がありますが、会社としては、宮崎作品のディストリビューションを行うという機能的なものしかなかった。一方、ディズニーは違います。ウォルト・ディズニーが亡くなった後も「夢と魔法の国」という世界観のもとにテーマパークを運営し、グッズを売り、「アナ雪」のようなメガヒットを創り出す。両社の違いは世界観の有無にあるといえるでしょう。

世界観を持つことのメリットとは何か。3つあります。それはお客さんに対して、社会に対して、人材に対して、作用します。それぞれ説明していきます。

お客さんに対して企業の世界観はどういう意味を持つのか。

「ネコリパブリック」は「猫の殺処分をなくしたい」という世界観を提示しています。増加する野良猫問題に対処するための「TNR活動」(Trap=捕獲する・Neuter=中性化する→避妊、去勢する・Return=元の場所へ戻す)や里親探し、ネコカフェの運営をしています。その活動は前述の世界観を根っことしています。これに賛同した、有名人を含めた様々な人が活動の拡がりに一役買っています。

スティーブ・ジョブズは革新的な発明をいくつもしていますが、そのなかでも「アップルストア」は重要だと思います。世界に430店舗あるアップルストアは、ショップではなく、体験する装置だと言えます。アップルのファンたちが、その世界観に共感しに行く場所。これは、これまで工業世界ではなかったことでしょう。

ドラッカーのいう「ノンカスタマー」(本来客であってもいいのに客ではない人たち)を顧客化するにはどうしたらいいか。ここでも、世界観が大きな役割を果たします。「こんないい製品、サービスがあります」と声高にアピールしても、「それはわかるけど、いまはまあいいや」となってしまう。それよりも「わが社は社会に対してこういう価値を提供したいんです」という世界観を提示すると、いまは興味がなくても、いつか、何かのきっかけで思い出し、リンクして、選ばれることがある。世界観はノンカスタマーを潜在顧客に変えることができるんです。

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