B社のスーパーを好んで利用する顧客層であれば、多少の高値でも問題なく買ってくれそうです。同じ「こだわりの新コーヒーが満を持して登場!」と書いてあるPOPをつけたとしても、A社のスーパーに訪れる顧客よりも「試してみようか」などと思ってもらえる確率は高いでしょう。
C社に卸す場合は取引形態がBtoCからBtoBに変わるので、前の2例との単純比較はできません。しかし、固定ファンを多く抱えるカフェで受け入れられ、定番商品として根付くことができればそれなりに利率のいい販売ができることでしょう。
価格のポジションが「未来」を決める
前項では、A社に卸した場合は「薄利多売の戦略をとることになる」としました。もちろん薄利多売自体が悪いわけではありません。しかし、新たなシリーズ商品を出しブランド戦略を展開していく場合は、注意が必要です。
行動経済学や販売心理学で有名な「アンカリング効果」というものがあります。アンカリング効果とは「第一印象の効果」を利用した戦略で、その名の通り第一印象が「アンカー(船の錨)」となり、その後の動き(この場合は購買行動)を決めてしまうというものです。
先のコーヒー飲料を例にとりましょう。最初に薄利多売方式をとって100~200円台で販売し、その後「スーパープレミアム版」として新たなシリーズ商品を開発したとします。
しかし、顧客としては最初の100~200円台の価格がアンカーとして印象づいているので、少しの高値でもハードルが高く感じられるようになります。一方、最初に500円台という値段をつけて「このブランド商品はこのくらいの価格だ」と印象付けておけば、少し高値のシリーズ商品を出しても「プレミアム版ならこのくらいか」と比較的容易に受け入れられるようになります。
これはシリーズ商品に限りません。冒頭に書いた、同じ商品・同じ価格でもフードコートと高級レストランとで印象が違ってくるのも、同じ効果を利用しているのです。
いかがでしょうか。従来の経済学は、消費者は「財(お金)と別の財(商品・サービス)の交換効率を高め、より多くの満足感を得ようとする」ことにフォーカスして研究が進められてきましたが、現代ではそれでは説明がつけられない事例が増えてきました。コンサルティングのように「量や質を標準化しづらいサービス」が現れたことも、その一因と言えるでしょう。
そこで「なぜ、顧客は不合理な選択をするのか?」という疑問を明らかにすべく、さまざまなアプローチが試みられています。経済学に心理学のアプローチを組み込んだ「行動経済学」もそのひとつであり、そのほんの一部を、本記事でご紹介しました。
冒頭でご紹介した『価格の心理学』には、「消費者心理を揺さぶる価格設定の方法」がより詳細に書かれています。価格戦略や購買行動に興味のある、すべての読者の参考になるはずです。