人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

●サイト(オフィス・モリオカ)
  → https://office-morioka.com/
●ツイッター
  → http://twitter.com/h_morioka
●facebookページ
  → https://www.facebook.com/officemorioka/
●Instagram
 → https://www.instagram.com/office_morioka/

 

「天地明察」と渋川春海

このエントリーをはてなブックマークに追加

2012/07/02 13:15

まもなく映画も公開される話題作、冲方丁の「天地明察」を読んだ。さすが本屋大賞受賞作だけあって面白く、文庫本上下2巻を一気に読める。

主人公は渋川春海。もとの名は安井算哲で、幕府の碁打の家系である。彼が貞享暦をつくりあげたことは高校の日本史の教科書にも登場するが、それがどういう意味を持つのかを分かっているいる人はほとんどいないだろう。

本書を読むことでその背景や、貞享暦の意味を知ることができる。そして、能力があれば碁打でもこれだけの仕事をまかされるという、徳川幕府の人材登用の仕組みにもふれることができる。

さて、無事改暦に成功した渋川春海は、幕府の創設した天文方となり、以後代々世襲した。

「寛政重修諸家譜」をみると、巻第1222に渋川家がみえる。先祖は清和源氏畠山氏の一族で、河内国渋川郡と播磨国安井を領したため、渋川とも安井とも名乗ったという。江戸時代は安井を称して碁打となっていたが、春海は分家して渋川に改めている。

しかし、同書ではその業績はそっけない。「貞享元年十二月朔日暦學をよくするをもつて拝謁の士に列し、天文方となりて廩米百俵をたまひ、後代々この役をつとむ」とある程度だ。

戦国時代の槍働きについては延々と記していることもあるが、貞享暦という歴史上に残る偉業については、「暦學をよくする」だけなのだ。これは、名目上改暦の主導は公家の土御門家であったため、幕府の公式記録としては、こういう記述にならざるを得なかったのだろう。

まさに、名を捨てて実を取っている。
このエントリーをはてなブックマークに追加

ページのトップへ