人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

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色の名字について

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2012/02/13 14:50

先週、久しぶりにインフルエンザに罹った。予防接種のせいか症状は高熱だけで、解熱剤が効いている間はそれほどつらくない。そこで、色と名字について考えてみた。

色の名前のつく名字は、「青木」「赤松」「黒田」「白川」などたくさんある。しかし、圧倒的に「青」「赤」「黒」「白」の4つが多い。「緑」「黄」「茶」といったごく当たり前の色のつく名字は少ないのだ。とくに、「黄」という漢字を使う名字はかなり珍しい。このあたり、現代の色に対する感覚とはかなりずれがあるといえる。

このことは地名でも同じ。近年は「緑」という漢字のイメージがいいことから、横浜市緑区、名古屋市緑区など、「緑」という漢字を使った地名が増えているが、古くからある地名では、やはり「青」「赤」「黒」「白」が大多数である。

実は、古代日本では、色は「青」「赤」「黒」「白」の4つしか無かったと言われている。「緑」や「茶」「黄」といった言葉はなかったのだ。

「青」で始まる名字といえば、「青木」(全国順位41位)が代表で、その他では「青山」(218位)「青柳」(403位)「青野」(802位)などが多い。これらの「青」はすべて木や草の葉の色である。つまり、「緑」のことを「青」と言っているのだ。今でも、緑色に光る信号を「青信号」というのもこれに関係しているかもしれない。

一方、「青」の反対の色を「赤」と言った。古代日本は照葉樹林で覆われていた。照葉樹林は秋になると赤く色づく。しかし、実際の葉の色で赤くなるのは紅葉など一部にすぎない。多くは茶色で、イチョウの葉は黄色である。つまり、「赤」には茶色や黄色も含んでいたのだろう。

 「日本国語大辞典」によると、「黄」という色が使われ始めたのは平安後期かららしい。一般に広まるには時間がかかったと考えれば、名字が爆発的に増えた時代には間に合わず、「黄」という漢字を使う名字が非常に少ないのもうなずける。
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