人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

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目黒のさんま祭

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2011/09/20 10:52

18日、毎年恒例の「目黒のさんま祭」が開催された。被災地の宮城県気仙沼市で水揚げされたサンマ5000匹が炭火で塩焼きにされ、無料でふるまわれた。

「目黒のさんま」と聞けば、一定以上の年齢の人にはその由来がわかるだろうが、落語を聞く機会の減った若い人にはわからないかもしれない。秋の落語の定番に「目黒のさんま」という演目があり、これに因んだ催しものだ。

知らない人のために簡単にあらすじを説明すると、遠乗りに出かけた殿様が目黒で空腹となり、1軒の農家で生まれて初めて焼き立てのさんまをごちそうになる。その味が忘れられない殿様は、ある日念願のさんまを食べる機会を得るが、殿様用にと油を抜き、身をほぐして小骨を抜いたさんまは、まずいことこの上ない。このサンマが日本橋の魚河岸から取り寄せたことを聞いた殿様、おもわず「サンマは目黒にかぎる」、と。

こどもの頃にこの落語を初めて聞いた時には、地方在住者には目黒がどこにあるかわからず、面白味がよくわからなかった。この落語は土地勘がないと難しい。

今でこそ目黒は山の手の高級住宅地だが、江戸時代の目黒は江戸ではなく、江戸向けの野菜の栽培が盛んな郊外の田園地帯だった。また、冷凍技術がないため、生のサンマが食べられるのは、日本橋から人力で直送できるごく限られた範囲だけだったのだ。

この貴重なサンマを食べながら、目黒がサンマの本場と思ってしまう殿様の感覚のズレを笑う落語なのだが、海から遠いところにある高級料理店で冷凍の魚を調理したものをありがたがる現代人も、漁港近くの人からみれば、「目黒のサンマ」と五十歩百歩に違いない。
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