直江兼続にちなむ地名

著者プロフィール

森岡　浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

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直江兼続にちなむ地名

2008/02/04 18:03

先日、山形新聞にびっくりするようなニュースが掲載された。
山形県米沢市の赤崩地区が、地名を直江石堤(なおえせきてい)に変更するというのだ。この付近は米沢市を流れる松川(最上川)の西側で、米沢南工業団地の一角。李山・芳泉町と合わせて、直江石堤に変更するという。

工業団地に進出した企業のうち、赤崩地区に立地した企業の中には、「赤字」で「崩れる」というのは縁起が悪いとして、わざわざ隣接する李山の地名を使う会社もあったという。

そこで、５年程前から市に対して地名の変更を申し入れており、このほど変更することが決まった。新しい地名は、来年の大河ドラマの主人公である直江兼続にちなむもの。赤崩地区は松川の流れが激しく、しばしば決壊した。そこで、直江兼続が赤崩山に登って堤防を築く場所を決め、治水を行ったことによる。

縁起の悪い地名をさけて、縁起のいい地名にすることは、“瑞祥地名”といい古くからあった。そもそも、奈良時代初めには、朝廷が「地名には好(よ)き字を使うよう」という指示を出すなど、生活圏にある地名は大事にした。その一方で、危険な場所にはそういう意味の地名をつけ、災害がおこることを未然に防いでいたといわれる。

実際、この赤崩地区も、しばしば松川の氾濫が起った場所。全国的にみても、「崩」という漢字の使われた場所は潜在的に危険な地域だったことが多いという。米沢市の赤崩地区は、直江兼続の治水によって危険はなくなったが安易な地名の改変は危険だと指摘する人もいる。

地元では来年の大河ドラマに向けて観光客の誘致にもなる、と目論んでいるようだが、たった一年の大河ドラマのために、恒久的な地名を合わせるというのはいかがなものだろうか。