人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

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洗足池で足を洗ったのは誰か

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2023/09/05 10:41

大田区に洗足池という池がある。池の名は「洗足」だが、付近の住所は大田区南千束である。この南千束の北側が北千束で、さらにその北側は目黒区洗足となっている。そして目黒区洗足には東急目黒線の洗足駅があり、大田区北千束には東急大井町線の北千束駅がある。両駅の間は数百メートルしかなく紛らわしい。

そもそも、この付近一帯は中世には「荏原郡千束郷」だった。その由来には諸説あるが、千束分の稲が貢祖から免ぜられていたことに因むというのが定説で、目黒区のサイトにもこの由来が記載されている。「束」というのは古代に稲を数えるときの単位で正確な分量はわからないが、千束というのはそれなりに多い量だろう。

千束郷には大きな池があり、その水が灌漑用に使われて付近の水田を潤していたらしい。洗足池はその名残で、かつてはもっと大きな池だったようだ。

鎌倉時代、病を得た日蓮が甲斐の身延山から常陸に療養に向かう途中、千束郷の池上村に立ち寄っている。池上村というのは、この大池に因む地名で、現在の南千束から馬込付近にまで広がる広い村だった。結局日蓮は常陸の国には行くことができず、池上村の豪族池上宗仲の館で没した。日蓮没後、池上宗仲が約7万坪の土地を寺領として寄進して建立したのが池上本門寺で、現在は日蓮宗の大本山の1つとなっている。

日蓮は池上村に立ち寄った際にこの大池で足を洗ったという伝説があり、やがて「千束の大池」は「洗足池」とも呼ばれるようになったという。そして、洗足池から「洗足」という地名も誕生したのだが、肝心の池のある場所は「千束」で、「洗足」には洗足池ははない。

洗足池には日蓮が袈裟をかけたという「袈裟懸の松」(現在は6代目)があり、池には貸しボートなどもある。残念ながらこの日は猛暑で、ボートを漕いでいる人は見当たらなかった。

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