一生モノのスキルになる!
『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法 <連載第60回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に精通する山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は
「文章の信頼性」について。
正しい言葉や表現を使おう
正しい言葉や表現を使えている人と使えていない人とでは、文章の信頼性に差が生まれます。とくに仕事で使う文章で「間違った言葉・表現」を使ってしまうと、読む人が「この人は大丈夫かな?」と不安や疑念を抱くこともあります。今回の記事では、間違えやすい言葉や表現をクイズ形式で紹介します。
Q1 次の【1】と【2】どちらが正しい言葉でしょうか?
Q1-1【1】過半数を超える
【2】過半数に達する
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A1-1 「過半数」とは〈全体の半分より多い〉という意味。したがって「過半数を超える」は、同じ意味の言葉を重ねる二重表現です。正解は【2】
A1-2 汚名を挽回したら“汚名の上塗り”になってしまいます。「汚名挽回」に違和感を抱かない人は、おそらく「名誉挽回」と混同しているのでしょう。正しい表現は「汚名を返上する」や「お名を雪(すす)ぐ」です。正解は【2】
Q1-3【1】取り付く島もない
【2】取り付く暇もない
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A1-3 「取り付く島もない」とは、航海中の船が嵐などに巻き込まれた際、近くに着岸できるような島がなく“どうすることもできない様子”を表す言葉で、〈頼れるところがない〉〈相手からつっけんどんにされる〉という意味です。「島」と「暇」を聞き間違えて「取り付く暇もない」と使う人が増えていますが誤りです。正解は【1】
Q1-4【1】寸暇を惜しまず働く
【2】寸暇を惜しんで働く
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A1-4 「寸暇」とは〈わずかな時間〉のこと。「寸暇を惜しんで」は〈わずかな時間を無駄にすることすら惜しんで物事に没頭にする〉という意味です。〈苦労をいとわず〉という意味の「骨身を惜しまず」と混同して「寸暇を惜しまず」と書かないよう注意しましょう。正解は【2】
Q2 次の【1】と【2】どちらが本来の意味でしょうか?
Q2-1「役不足」
【1】本来の能力より重い(手に余る)仕事や役割を与えられること
【2】本来の能力より軽い仕事や役割を与えられること
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Q2-2「煮詰まる」
【1】議論が行き詰まって、結論が出せない状態のこと
【2】考えや意見が出尽くして、結論に近づいている状態のこと
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Q2-3「話のさわり」
【1】広まりつつある意味:話の導入部分のこと
【2】話の要点や印象深いところ。聞かせどころ
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Q2-4「流れに棹(さお)さす」
【1】傾向や時流に逆らって、物事の勢いを失わせる行為をすること
【2】好都合なことが重なり、勢いが出て物事が順調に運ぶこと
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Q2-5「穿(うが)った見方」
【1】疑ってかかるような見方をすること
【2】物事の本質を的確に捉える見方をすること
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A2-1〜5 正解はすべて【2】
Q3 以下の問いにそれぞれ答えましょう
Q3-1 「味わう」のはどれ?
【1】苦汁
【2】辛酸
【3】苦渋
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A3-1 苦渋「くじゅう」には「苦渋」と「苦汁」のふたつがあります。苦渋は〈苦しみ悩むこと〉という意味で、心理面にフォーカスしているのが特徴です。通常、「苦渋を味わう」の形で使われます。一方の苦汁は〈辛く苦しい経験をする〉という意味で、経験にフォーカスしているのが特徴。「苦汁をなめる」や「苦汁を飲む」の形で使われることが多い。それぞれ「苦渋をなめる」や「苦汁を味わう」とは書きません。正解は【3】
Q3-2「きく」のはどれ?
【1】目鼻
【2】目星
【3】目端
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A3-2 「目端(めはし)」とは“目の端”のことで、「目端がきく」は〈機転がきく/抜け目がない〉という意味。「目鼻がつく」(=〈物事がおおよそでき上がり、見通しが立つこと〉の意味)と混同して「目鼻がきく」と言う人がいますが、「目鼻がきく」という言葉はありません。なお、「目鼻がつく」と似た言葉に、〈大体の予想・見当がついた〉という意味の「目星がつく」があります。正解は【3】
Q3-3 「心血を」に続く言葉は?
【1】傾ける
【2】注ぐ
【3】込める
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A3-3 「心血」は「注ぐ」ものであり、「傾ける」ものではありません。「このプロジェクトに心血を注ぐ」という具合に使います。ちなみに、「傾ける」には「全力を傾ける」「情熱を傾ける」などの表現があります。正解は【2】
Q3-4 「招聘(しょうへい)する」の正しい意味はどれ?
【1】目上の人を招いてもてなすこと
【2】お金を渡す代わりに来てもらうこと
【3】礼儀の限りを尽くして、丁寧に人を招くこと
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A3-4 正解は【3】
Q3-5 「忸怩(じくじ)たる思い」の正しい意味はどれ?
【1】傷つきながらも悔しさに耐えること
【2】自身の言動を反省して、恥ずかしく思うこと
【3】心残りで残念に思うこと
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A3-5 正解は【2】
もちろん、言葉は生き物です。本来の意味から姿を変えた言葉や表現が現在のスタンダードになっているものもあれば、今後スタンダードになっていくものもあるでしょう。大多数の人が使っているにもかかわらず「本来の使い方と違う!」と目くじらを立てても仕方ありません。
一方で、まだ本来の意味で使っている人が大多数の言葉や表現に関しては、本来の言葉(=大多数の人が使っている言葉)を使えるようにしておきましょう。間違った言葉や表現を使うことによって周囲から「この人は言葉を知らない(正しく使えていない)」と思われて信頼性を下げてしまう恐れもあります。
「どちらもよく見かけるけど、どちらが正しい言葉なんだろう?」と思ったときは、しっかり調べて、現時点における「正しい言葉・表現」を使えるようにしておきましょう。
山口拓朗(やまぐち・たくろう)
伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、2002年に独立。26年間で3600件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて、「1を聞いて10を知る理解力の育て方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「伝わる文章の書き方」などの実践的ノウハウを提供。著書は『マネするだけで「文章がうまい」と思われる言葉を1冊にまとめてみた。』(すばる舎)、『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(以上、日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)、『ファンが増える!文章術——「らしさ」を発信して人生を動かす』(廣済堂出版)ほか多数。