一生モノのスキルになる!
『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法 <連載第59回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に精通する山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は「書くための基礎づくり」について。
夏目漱石や川端康成の文章は参考にならない?
文章力を伸ばしたい人にオススメのトレーニングがあります。それは「人の文章を模写する(書き写す)」というもの。文章を書くすべての人に有効な方法です。
夏目漱石や川端康成のような文豪が書いた古典の名文を模写することは、積極的にはオススメしません。もちろん、古典の名文から学べることも多いとは思います。しかし、時代が変われば文章のスタイルや風合い、トレンドも変わります。そういう意味では、真っ先に取り組む対象ではありません。
では、模写対象にはどのような文章を選べばいいのでしょう? タイムリーに活躍している作家の文章や、あなたが「こんな文章を書けるようになりたいなあ」と憧れる人の文章を選ぶことをオススメします。
文章の書き方のみならず、その書き手がまとう人間性や人格、思想、価値観への憧憬があればなおのこと模写の対象として適切です。なぜなら、模写することによって、文章の書き方のみならず、その書き手の考え方や思想、価値観などもインストールできるからです。
模写することで得られるメリット
「模写する」という追体験がもたらすメリットは計り知れません。以下は、模写することで学べることです。
□文体(「です・ます調」など)
□文法(主語と述語の対応、「係り受け」のルールなど)
□文章の流れ(「論理展開」含む)
□文章のリズムや強弱/文章の間(ま)
□句読点の打ち方
□言葉・表現の選び方
□考え方や意見の示し方
□理由や根拠の示し方(説得力の高め方)
□書き手の価値観や思想、哲学など
□情報の取捨選択(何を書いて、何を書かないか)
一言一句をそのまま書き写すことによって、「書き方のポイント」はもちろん、その人(模写対象の筆者)の思考プロセスから価値観、論理展開、言葉の選び方、思考や感情の変化についても、たっぷりと味わい尽くすことができます。
それらはすべて、あなた自身の中に取り込まれていき、血肉となり、やがてあなたの一部となるでしょう。
模写トレーニングは「守破離」の「守」
芸事やスポーツなどでは「守破離」が重要と言われています。
【守】 教えられたことを忠実に守り、実行すること
【破】今まで学んだことを、初めて破り、応用をきかせ発展させていくこと
【離】今まで学んだことを離れ、独自のオリジナリティを出すこと
模写は、まさしく師匠の教えを忠実に守る「守」のパートです。お手本の文章を真似することで、それぞれの技術の土台となる基本が身につくのです。
模写することで「オリジナリティが消えてしまうのでは?」と危惧する人もいるかもしれませんが、それは大きな誤解です。
模写は、守破離の「守」にすぎません。模写して消えてしまうものなど、そもそもあなたのオリジナリティではありません。基本を身につけ、「破→離」と進む中で芽生えてくるもの —— それこそが本当のオリジナリティです。
模写する量は、1日数行でもかまいません。憧れの文章に触れながら、文章力の土台を固めていきましょう。
山口拓朗(やまぐち・たくろう)
伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、2002年に独立。26年間で3600件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて、「1を聞いて10を知る理解力の育て方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「伝わる文章の書き方」などの実践的ノウハウを提供。著書は『マネするだけで「文章がうまい」と思われる言葉を1冊にまとめてみた。』(すばる舎)、『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(以上、日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)、『ファンが増える!文章術——「らしさ」を発信して人生を動かす』(廣済堂出版)ほか多数。