一生モノのスキルになる!
『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法 <連載第57回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に精通する山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は「人を動かす文章」について。
「何を言うか」より「誰が言うか」
「ビジネスパーソンとして成長したいなら、毎日、日記をつけなさい」
あなたが「ウザい」と思っている上司から、チャットでこんな文面が届きました。あなたはどんなふうに思いますか?
まったく聞き耳をもたないか、あるいは、「うるさいわ! 人間的に尊敬できないあなたの説法なんて聞きたくもない。日記なんて絶対につけない!」と(口には出さずとも)反発するのではないでしょうか。
一方で、このチャットを送ってきたのが、あなたが以前から尊敬している上司だった場合はどうでしょうか?
「尊敬する○○さんが自分にアドバイスしてくれた! 嬉しい! 早速 今日から日記をつけてみよう!」と素直に思うのではないでしょうか。
このように、言葉というのは、誰に対しても同じ効果をもたらすものではありません。同じ言葉でも、「誰が言うか」によって受け取り方が大きく変わるのです。
書き手と読み手の間にある「心理的な壁」
言葉の効果というのは、唯一絶対ではなく、書き手と読み手の関係性の中で決まります。
信頼していない相手や、嫌いな相手から何か指示されたとき
心を開きにくい/言葉を受け入れにくい/聞く耳を持ちにくい
信頼している相手や、尊敬している相手から何か指示されたとき
心を開きやすい/言葉を受け入れやすい/聞く耳を持ちやすい
逆に考えましょう。あなたが伝える側に回ったとき、あなた自身が相手から信頼・尊敬されていれば、相手があなたの言葉(指示、意見、提案、助言など)を受け入れる確率は高まります。
一方で、あなたが読む人から信頼されていなかったり、毛嫌いされていたりした場合、あなたの言葉が読む人に受け入れられる確率は下がります。
つまり、書き方や伝え方うんぬん以前の問題として、自分と相手の間にある「心理的な壁」の高低が、伝え方に影響を与えているというわけです。
それゆえ、私たちは書き方のスキルを磨くと同時に、自分自身の「人間力」を高めていかなければいけないのです。
「人を動かす文章」を書くために大切なこと
「この人は信用できる」「この人は尊敬できる」——あなたが読む人からそう思われているなら、書き方が多少ぎこちなくても、あなたの文章(文意)は読む人に刺さるでしょう。これが「人間力」が高い状態です。
「人間力」は「信用&尊敬の貯金」で測ることができます。
たとえば、あなたが日ごろから——「何事も誠実に対応する」「意欲的に仕事をする」「思いやりを持って人と接する」「人の話をよく聞く」「人のために行動する」「人に興味・関心をもつ」「しっかり挨拶をする」「人のことをよく褒める」「心をオープンにする」「謙虚さを忘れない」——といったことをしていれば、あなたの「信用&尊敬の貯金」はどんどん貯まっていくはずです。
一方で、あなたが日ごろから——「人の悪口を言う」「人に嫌味を言う」「愛想が悪い」「自慢話が多い」「人の話を聞かない」「自分勝手なふるまいに終始する」「態度が傲慢」「偉ぶる」「人の否定・批判ばかりする」「人を軽んずる」「人を無視する」「敵意を剥き出しにする」——といったことばかりしていると、いざというときに、相手に言葉を受け入れてもらいにくくなります。「信用や尊敬」がまったく貯まっていかないからです。
「自分のこと」や「自分の言葉」を受け入れてもらいたければ、まずは自分から心を開いて、「相手のこと」や「相手の言葉」を受け入れていく必要があります。文章のパワーを高められるかどうかは、書き手自身のふだんの言動にかかっているのです。
山口拓朗(やまぐち・たくろう)
伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、2002年に独立。26年間で3600件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて、「1を聞いて10を知る理解力の育て方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「伝わる文章の書き方」などの実践的ノウハウを提供。著書は『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(以上、日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)、『ファンが増える!文章術――「らしさ」を発信して人生を動かす』(廣済堂出版)ほか25冊以上。