一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第48回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、使う頻度の高い助詞「は」と「が」の使い分け方について。
「既知の情報」か? 「未知の情報」か?
主語のあとに用いる助詞の「は」と「が」。両者の使い分けで迷った経験がある人も多いでしょう。「は」と「が」の使い分けには、いくつかのポイントがあります。
1つめは、主格となる名詞が既知の情報(=すでにしていること/わかっていること)なのか、未知の情報(=知らないこと/わかっていないこと)なのか、その違いによる使い分けです。
<例文1:既知の情報の場合>
小林さんは学生です。
<例文2:未知の情報の場合>
小林さんが学生です。
例文1は、書き手が小林さんのことを知っている状態(=既知の情報)です。そのため、助詞に「は」を用いました。一方、例文2は、学生が誰であるのか知らない状態(=未知の情報)なので、助詞には「が」を用いました。
少し別の角度から説明をしましょう。例文1は「小林さん(という既知の人)の立場は何ですか?」の答えであり、例文2は「学生(未知の人)はどなたですか?」の答えです。このように、文章の裏に隠れている質問を考えてみると、その文章の主格が「既知の情報」か「未知の情報」か、を見極めることができます。
ちなみに、結果的に例文1は述語(「学生です」)を、例文2は主語(「小林さんが」)を強調する文章になっています。どちらも、“読者が知りたい情報”に光を当てた文章と言えます。
「対比」か? 「排他」か?
2つめは、その文章が「対比」を表すものなのか、「排他」を表すものなのか、その違いで使い分ける方法です。対比の意味なら「は」を、排他の意味なら「が」を使います。
<例文3>
山本君は文化祭委員長で、清水君は生徒会長だ。
<例文4>
清水くんが生徒会長だ。
例文3は、清水君と山本君を対比しているので、助詞に「は」を用いています。一方で例文4の場合は、“(他の誰でもなく)清水くんが生徒会長である”という、清水くん以外を履い排他するという意味で「が」を用いています。
「判断文」か? 「現象文」か?
3つめは、「判断文」か「現象文」かの違いによる使い分けです。判断文とは、書き手の主観に基づいて判断を加えて表現する文章のことです。判断文の主格には「は」を用います。
一方、現象文とは、書き手の主観に基づく判断を避け、ありのままのの現象(出来事、状態など)を表現する文章のことです。現象文の主格には「が」を用います。
<例文5>
お酒は苦手だ。
<例文6>
お酒が運ばれてくる。
例文3は書き手自身の「苦手である」という判断を含む文章であり、例文4は目の前の現象をありのままに表現した文章です。書き手の主観的な意見や考えを含む時は判断文として書き、誰の目にも明らかな事実を記すときは現象文として書きます。
もっとも、本稿でお伝えした「は」と「が」の使い分け基準は “絶対のルール”ではありません。「は」と「が」で迷ったときは、これらの基準を参考にしながら、ニュアンスも含めてどちらがその文章にふさわしいか、丁寧に比較検討しましょう。「この助詞だとしっくりこない」という違和感に気づくセンスを磨くことが肝心です。