一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第35回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、モヤモヤした感情を文章で表現する発信術ついて。
「感情の理由」を書くと魅力的な文章になる?
感情の理由を言葉にできる人ほど魅力的な文章を書くことができます。一方で、感情の理由を言葉にできないと、読む人の興味・関心を引くことができません。SNSでの発信ともなればなおのこと書き手の感情の理由の有無が、文章の魅力の有無に直結します。
とはいえ、「自分の感情の理由を把握するのは苦手」という人もいるでしょう。あいまいな気持ち、モヤモヤした気持ち、すっきりしない気持ち――なぜ、こんな感情が湧いてきたのか? その理由を捉えられず悶々とするような状態です。簡単ではないからこそ、理由を捉えて書くことができる人の文章には価値があるのです。
心に浮かんだモヤモヤを言語化し向き合う
【原文】
小説『○○○』を読みました。おもしろい小説だと思うのですが、どうもすっきりしないというか。好き嫌いで言うと……微妙なところですね。
書いている本人もモヤモヤしていると思いますが、読む人までモヤモヤさせるのはよくありません。どうやら書き手はこの小説に気に食わない点があるようです。しかし、その「すっきりしない」理由が把握できていない。だから、はっきりしない、読む人にとって“どうでもいい”文章を書いてしまうのです。
【改善文】
小説『○○○』を読みました。登場人物の造形がすばらしく、駆け引き満載の人間ドラマも見応えがありました。ただ、ひとつ残念だったことがあります。それは、ある会社の社員が結託して、ひとりの優秀な社員を会社から排除しようとする場面。その社員を悪役に仕立て上げたうえにSNSで拡散するというやり方が、あまりにも現実離れしていて、そこで気持ちが冷めてしまいました。
「あまり好きではない」理由を示せずにいる原文に対して、改善文ではその理由を明確にしています。どうやら書き手は「度を超えた人材排除の方法」の現実味のなさに萎えてしまったようです。感情の理由を示したこの文章であれば、読む人をモヤモヤさせることはありません。
改善文では、感情としっかり向き合っています。“すっきりしない”という感情を放置せず、その感情が湧き上がった場面に立ち返り、そこで何が起きたのかについて、詳細を書き込んでいきます。言語化しながら、なぜ“すっきりしない”と感じたのか。その正体を浮かび上がらせています。感情を放置した原文との差はここにあります。
「不思議と居心地が良かった」――その理由は?
【原文】
軽井沢にある○○ホテル。建物も古びていて、食事もお世辞にも豪華とは言えません。でも不思議と居心地が良かったです。
「建物も古くて食事も質素なのに、なぜ居心地がいいの?」と、読みながらモヤモヤした気持ちになります。モヤモヤの原因は「不思議と居心地がいい」ことの理由が書かれていない点にあります。おそらく、この文章の書き手自身が「不思議と居心地がいい」という感情がなぜ湧き上がったのか把握できていないのです。
【改善文】
軽井沢にある○○ホテル。建物も古びていて、食事もお世辞にも豪華とは言えません。でも女将さんとスタッフのホスピタリティがすばらしく、とても居心地が良かったです。
居心地のいい理由に触れなかった原文に対して、改善文には「女将さんとスタッフのホスピタリティがすばらしく」という具合に、居心地のいい理由を書いています。この改善文であれば、読む人をモヤモヤさせることはありません。書き手が自分の感情と向き合った賜物と言えます。
感情を放置しておくと「鈍感」「不感症」になる?
もちろん、すべての感情の理由を突き止めるのは難しいかもしれません。人間には自分では説明のつかない気持ちが湧き上がることもあるからです(潜在意識の影響など)。
だからといって、感情を放置していてばかりいると、「鈍感」、そして「不感症」になりかねません。多くの場合(9割以上)、感情が湧き上がった瞬間に立ち返ることによって、何かしらの理由(感情が湧き上がった理由)を突き止められるはずです。ある種、その面倒な作業に挑戦していくことが「文章を書く」ことの意味とも言えます。それができた人には読者の大きな反響というリターンがあるのです。
自分の感情を放置しないこと。そして、その気持ちが湧き上がった場面に立ち返えること。SNSで自分らしく魅力的な文章を書きたいなら、このプロセスを自覚的に歩んでいきましょう。