一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第32回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、鮮やかにリアリティを伝える「五感」の書き方について。
人間のセンサー「五感」を武器に文章を書こう
何かしらの体験やエピソードを書くときには、五感を書くテクニックが有効です。五感を書くことによって、「映(ば)える」文章になりやすく、その場の情景や光景、様子、自身の体感などを、読む人にリアルに伝えることができます。
ご存知のとおり、五感とは、人間に備わっている代表的な感覚のこと。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5つがあります。これらを文章で表現することで、より鮮明で臨場感のある文章ができ上がります。
視覚
五感のなかで、最も書きやすいのが視覚です。視覚とイメージは密接に結びついています。ただ「にんじん」と書くよりも、「夕陽を思わせる濃いオレンジ色のにんじん」と書くほうが、より鮮明な「絵」として伝わります。
・もうすぐ破裂するのでは? と思うほどパンパンにふくらんだ財布。喜べないのは、その中身が「お金」の束ではなく、「レシート」の束だからだ。
・その黒光りしている岩山は、地面の裏側から突き刺したかのように鋭く尖っていた。ベテランのロッククライマーでも攻略は難しそうだ。
聴覚
聴覚を書くときは、オノマトペ(擬音語、擬声語、擬態語など)を用いるとリアリティが増します。「お腹がすいた」よりも、「お腹がグ〜と5秒ほど鳴った」と書くほうがイメージがわきます。なお、広い意味では、会話文も聴覚描写のひとつです。
・地平線が明るくなると、鳥たちが示し合わせたかのように、チュンチュンと鳴き始めた。自然界のリズムに脱帽だ。
・ガチャっと重たい扉を開けて社長が入ってきた瞬間、会場にピリっと緊張感が走った。
・夫の「了解ではございません」という訳のわからない寝言を聞こえてきて、真夜中にもかかわらず、私は思わずプっと吹き出した。
嗅覚
五感のなかでも、とりわけ「記憶」や「感情」に直結していると言われているのが嗅覚です。「匂いの描写→思い出」「匂いの描写→気持ち」の順で書くと効果が高まり、読む人の共感を誘いやすくなります。
・5年ぶりの実家。焼きたてパンの香ばしい匂いで目が覚める。一瞬、子どもの頃に戻った気がした。
・すれ違いざまに、レモンのようなさわやかな香りが漂ってきた。この子と話がしたい。僕はそう直感的に思った。
味覚
味覚の描写は「しょっぱい」「辛い」「すっぱい」「甘い」「苦い」「渋い」などの味表現をベースに、触感の描写(こしがある/とろける/サクサク等)や、温度の描写(ほくほく/キンキンに冷えた/ぬるい等)を交えることによって、“食”にまつわる文章のリアリティが高まります。
・ライムの酸味と生ハムのしょっぱさが、口の中で絶妙のアンサンブルをくり広げた。ワインが進まないはずがない。
・カリっと硬めの歯ごたえと、存在感のある苦味。高カカオチョコレートは、やっぱりやめられない。
・その肉まんに食らいついた瞬間に、ジューシーな肉汁がじゅわ〜っと口の中にあふれ出した。
触感
触感とは、手触りや、肌触りといった、触った時の感覚のこと。皮膚の感覚だけでなく、広い意味では、頭、首、腕、お腹、お尻、腰、脚など、からだの全体、または一部で感じたことを表現します。
・シルクのようにやわらかく、すべすべした素肌だ。
・お鍋を触った手のひらが、その熱さに耐えきれず、思わず「あちっ!」と声を上げてしまった。
・35キロを過ぎると、鉛でも入れられたかのように脚が重くなり、ついには我慢できず、歩き始めてしまった。
「神は細部に宿る」という格言は、文章作成にも適用できます。「五感描写=細部描写」です。五感を上手に捉えられるようになると、文章表現の“幅”と“可能性”が一気に広がります。ふだんから五感を意識しながら表現するクセをつけましょう。