一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第18回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、読みやすさをアップさせる「かぎ括弧」の使い方について。
かぎ括弧は会話文のみに使うもの?
かぎ括弧( 「」 )は会話文のときに使うもの、と思い込んでいる人が少なくありません。たしかに、かぎ括弧は会話文を作るときの必須ツールです。
「あれっ、どこへ行くの?」
「晩ごはんの買い物よ」
「そうか、じゃあ、ごはんを炊いておくね」
「ああ、助かるわ。よろしくお願い」
「オーケー。気をつけていってらっしゃい」
このように、小説を筆頭に登場人物が話を交わす場面では、かぎ括弧がしばしば登場します。
しかし、「かぎ括弧は会話文でしか使ってはいけない」というルールはありません。たとえば、以下のような目的で用いるケースもあります。
1.言葉を強調したいとき
2.意味の区切り(関係性)を明確にしたいとき
1や2の目的でかぎ括弧を用いると、文章の「読みやすさ」や「理解度」がたちどころにアップするのです。
かぎ括弧を使うと、該当箇所が視覚的に浮かび上がる
実例を見ていきましょう。
【文章1】
そんなときに使えるのが、この方眼ノートなのです。
【修正文】
そんなときに使えるのが、この「方眼ノート」なのです。
文章1は「方眼ノート」というキーワードが、文章の中に埋もれてしまっています。もちろん意味は通じますが、それが“重要である”というメッセージは伝わってきません。
修正文では、かぎ括弧でくくった「方眼ノート」というキーワードが、浮き上がって見えます。当然、読む人の意識もそこに向かいやすくなるため、方眼ノートが“重要である”と認識しやすくなります。
【文章2】
ドルやユーロなどの他国通貨に対して円の価値が高くなることを円高といいます。一方、他国通貨に対して円の価値が低くなることを円安といいます。
【修正文】
ドルやユーロなどの他国通貨に対して円の価値が高くなることを「円高」といいます。一方、他国通貨に対して円の価値が低くなることを「円安」といいます。
文章2は円高と円安についての解説です。かぎ括弧を使わずに書いた文章2に対して、修正文では、「円高」と「円安」という対比関係にあるキーワードにそれぞれかぎ括弧をつけました。かぎ括弧を使うことで、より読みやさがアップし、両者の対比関係も明確になりました。
【文章3】
お金がある=幸せという考え方は間違っています。
【修正文】
「お金がある=幸せ」という考え方は間違っています。
文章3と修正文の違いもかぎ括弧の有無です。かぎ括弧を使わなかった文章3では「お金がある=幸せ」という関係性が、今ひとつはっきりしません。
しかし、かぎ括弧でくくった修正文であれば「お金がある=幸せ」の等式がパっと目に飛び込んできます。読むときのストレスが小さく感じられるのは、見た目を工夫した修正文のほうではないでしょうか。
書籍や定期刊行物のタイトルには二重括弧を!
ほかにも、かぎ括弧は映画のタイトルやテレビ番組名を書くときなどにも用いられます。たとえば、<新海誠監督が放つ注目のアニメ映画「天気の子」>や、<日曜日の朝のワイドショー番組「ワイドナショー」>などがその一例です。
また、論文やリポートの題名にもかぎ括弧を使います。「言語化能力とメタ認知能力の相関性」といった具合です。同様に、文献や書籍から文面を引用するときにもかぎ括弧を使うのが一般的です。
一方、書籍や定期刊行物(雑誌など)のタイトルには、二重かぎ括弧( 『 』 )を用いるのがセオリーです。一例としては、『陸王』(池井戸潤著)、朝日新聞出版が毎週発行する週刊誌『AERA(アエラ)』などです。
かぎ括弧を用いるためには、情報に優先順位をつける必要がある
もちろん、なんでもかんでもかぎ括弧を使えばいい、ということではありません。かぎ括弧を使いすぎれば、強調の効果が弱まるうえ、意味の区切り(関係性)が、かえってわかりにくくなることもあります。
書き手であるあなたが、とくに強調して伝えたいメッセージや情報は、いったいどういうものでしょうか? かぎ括弧を適切に使うためには、あらかじめ書き手自身が、伝えるべきメッセージや情報に優先順位をつけておく必要があります。
いちど書き上げた文章を読み返すときには、かぎ括弧を用いたほうがいい箇所、逆に、外したほうがいい箇所の検討もしましょう。目的やケースに応じて臨機応変にかぎ括弧が使えるようになると、文章の読みやすさと理解度が格段にアップするはずです。