本コラムは日本実業出版社が発行、エヌ・ジェイ出版販売株式会社が販売する企業向け直販月刊誌「企業実務」内に掲載されているコラムを転載したものです。
「企業実務」本誌の購読・見本誌・お問い合わせ等をご希望の方は、下の「著者プロフィール」欄内のバナーよりエヌ・ジェイ出版販売株式会社までお問い合わせください。
2018/09/13 09:53
企業の経理・総務担当者が職場で直面する、規定集・法規集などに答えが見当たらない疑問、状況がレアケースすぎてそのまま規定を当てはめていいのかどうか迷う悩みに、プロの実務家・専門家が答えます!
※本コラムの内容について※
本コラムは、月刊「企業実務」内で連載されている同名の連載を再編集したものであり、関連法規・規定等については公開時点のものに準拠しています。
従業員100名の雑貨メーカーの総務部長です。将来的な海外進出を考えており、市場調査のために海外駐在員を置こうという話が出ています。当社としてははじめてのケースで、給与は何を基準に検討すればよいですか?
初の海外駐在ということで、ご心配かもしれませんが、案ずるほどのことではありません。まず「だれ」を「どこ」に、をお考えください。単身者なら特に問題ありませんが、中堅以上の妻帯者なら家族や教育支援も必要です。
どこの国に赴任するのかは重要です。自家用車(先進国)なのか運転手付き(途上国)なのか、またハードシップ手当といわれるような危険・困難相当分の支給を検討すべき場合もあります。
海外給与設定については、おおよその目安があります。一般的な給与決定方式となっているのが購買力補償方式で、国内と同等の購買力(あるいは生活)を世界中のどこでも確保するという考え方です。海外に事業展開している中堅企業以上では大半がこの考え方に基づいて給与を設定しています。
つまり、「国内勤務時の給与から税・社会保険料等を差し引き、生計費指数等を乗じて現地通貨建てで算出、支給する」というものです。生計費指数の例を下に挙げました。生計費は日本国内と同じような生活をするために必要なコストですので、安全への配慮などにかかる費用も含まれるため、物価が安い地域だからといって必ずしも生計費指数が低くなるとは限りません。
大企業では、MERCER等の生計費調査機関が実施する生計費調査指標を利用することが多いようです(調査機関からデータを入手するには費用が発生します)。現地での社会保険等は会社負担となります。
今回が初駐在であるなら当面、問題にはならないでしょうが、何人かが何か所かで駐在すると、都市別に表示されるので、同じ国でも居住場所が調査対象の都市から離れると実態と異なるという指摘が赴任者から出ることがあるかもしれません。
駐在期間は3年から5年程度が一般的ですが、家族帯同による住宅、子女教育、医療保険補助まで考慮する必要があります。都市部か郡部かの居住場所の違いによって住宅、教育支援に大きな差が生じることがあります。
同時に、就業時間や休日日数の違いなども考慮するべきです。他社情報がいろいろ入ると、赴任・帰任手当、帰国休暇などについても検討が必要だということになるでしょう。当面は、為替レートの変動について十分注意しておきたいところです。
購買力補償以外に給与を決める方式として、併用方式(国内で支給している基本給に比例して支給する給与と国別・都市別に設定した給与を合算、支給する方式)、別建て方式(国内月例給与とはまったく別建ての体系・水準を決める方式)があります。基本的に購買力補償方式の納得性が高いといえます(企業実務 16年10月号より転載)。
一般社団法人中部産業連盟主幹コンサルタント。経営戦略、人事、人材開発の専門家として大企業から中小企業までの指導・研修を担当。『チームで取り組む問題解決の考え方・すすめ方』等の著書がある。
従業員50名の製造業の管理部長です。子育てのため退職した昔の部下が、子どもに手がかからなくなったので職場復帰を希望していると耳にしました。嘱託として再雇用する場合、何に気をつけるべきでしょうか。
「子育てに専念したい」といって退職した元社員を再度雇用するといった場合に、特に考えておかなければいけないポイントは2つあります。
1つ目のポイントは、労働契約の観点です。今回は「嘱託」として雇用するということですので、正社員とは 仕事の内容や労働条件について違いがあるはずです。その点を本人にしっかりと理解させて、雇用契約書にも記載する必要があります。
嘱託社員と正社員の労働条件が異なる場合、その違いを明文化しておくことも大切です。嘱託社員用の就業規則を作成するか、正社員などで使用している就業規則を改訂し、適用範囲に嘱託の場合を追加したうえで、労働条件に違いのある部分について誤解が生じないように分けて記載する必要があります。
2つ目のポイントは、仕事への対応能力を過信しないことです。その方は、実務経験はあってもしばらくの間家庭に専念し、仕事をしていなかったという状態だと思います。仕事の「感覚」を取り戻すまではミスも多いでしょうし、また会社のシステム、ルールの変更、人間関係の変化など、自分が在職していたときとは違うと感じることが多くあるでしょう。
個人差はありますが、少なくとも1か月から3か月くらいは、新人同様と考え、かつての仕事ぶりを知る人にもそうでない人にも、経験者であっても「慣れるまでの期間」が必要だということを、理解しておいてもらいましょう。
徐々に仕事のペースは戻るとは思いますが、本人が「こんなはずではなかったのに……」という焦りをもつ場合もありますので、ペースがつかめるまでは、上司がしっかりとフォローしてあげることが求められます(企業実務 17年3月号より転載)。
社会保険労務士法人日本人事代表社員。財団法人の技術・研究職、法務部門を経て独立。現場、企業法務、危機管理、労働組合役員の経験を活かし、法律を踏まえた現実的な解決策を得意とする。