『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる

「文章を書くことがストレスです」
「文章を書くことが苦手で……」
「文章を書くのに時間がかかります」

そんな「文章アレルギー」の人は多いのではないでしょうか? しかし、文章を書けるかどうかは、仕事の成果や周囲の評価に大きく関わります。

そんな文章に関する「困った」にやさしく応えてくれるのが、『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』を著書にもつ、山口拓朗さんです。

この連載では、これまでライターとして数多くの取材・インタビューを経験した中から導き出した、「書くことが嫌い」を「書くことが好き」へと変える、文章作成のコツを教えてもらいます。

著者プロフィール

山口拓朗(やまぐち・たくろう)

伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、2002年に独立。26年間で3600件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて、「1を聞いて10を知る理解力の育て方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「伝わる文章の書き方」などの実践的ノウハウを提供。著書に『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)、『マネするだけで「文章がうまい」と思われる言葉を1冊にまとめてみた。』(すばる舎)、『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(以上、日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)、『ファンが増える!文章術——「らしさ」を発信して人生を動かす』(廣済堂出版)ほか多数。

文章が格段にわかりやすくなる「補足説明」の技術

このエントリーをはてなブックマークに追加

2018/09/05 16:33

(photo by acworks/photoAC)

一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第7回>

伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は読み手に伝わる文章にするために大切な「補足説明」について。

「読めばわかるだろう」は読み手の混乱を招く

この連載の一覧はこちら

わかりにくい文章を書いてしまう人の傾向のひとつに「補足説明がない(あるいは十分ではない)」というものがあります。

たとえば、「ベーシックインカム」という言葉を使うとき、読む人が「ベーシックインカム」についてどれだけ理解しているかを把握しておく必要があります。仮に、読む人が理解していない・理解が乏しいと判断したときは、「ベーシックインカム」がどんなものかを示す「補足説明」を盛り込まなければいけません。

ところが、わかりにくい文章を書いてしまう人は、そこに思いが至りません。読む人の知識レベルや理解レベルについて考えないため、必要な補足説明を省いてしまうのです。その結果、「ベーシックインカムって何なの?」と読む人に首を傾げさせてしまうのです。ビジネスシーンであれば、大きく評価や信用を落としてしまう恐れもあります。

一方で、わかりやすい文章を書く人ほど、以下のような意識をもっています。

・読む人はこの言葉の意味を知らないかもしれない
・読む人はこの言葉の意味を忘れてしまっているかもしれない
・読む人はこの言葉の意味を間違って覚えてしまっているかもしれない

彼らは読む人のことを、いい意味で信用していません。そして、その信用ならない相手に“どうすればわかりやすく伝えることができるか”を考えながら文章を紡いでいます。「ベーシックインカム」の例でいえば、「ベーシックインカム」がどういうものかを理解できるよう、適切に「補足説明」を盛り込むことができるのです。

ちなみに、ベーシックインカムとは「現状の社会保障・年金制度等を廃止し、そのうえで政府がすべての国民に対して、最低限の生活に必要とされている金額を無条件かつ定期的に支給する政策」のこと。ベーシックインカムを知らない人には、こうした補足説明が必要なのです。

「補足説明」の一手間で、格段にわかりやすい文章になる

実際に「補足説明」のある文章とない文章の違いを見ていきましょう。

【例文】

生物に与えられた大きな特性のひとつがホメオスタシスです。ホメオスタシスのお陰で、私たちの生命や健康は維持できているのです。

「ホメオスタシス」について理解している人であれば、「そうだよね」とこの文章をストレスなく受け取るでしょう。一方で、「ホメオスタシス」を知らない人や、しっかりと理解していない人には「ホメオスタシスって何だ?」と首をひねられてしまうでしょう。最悪の場合、「なんだかよくわからないなあ」「なんだか難しそうだなあ」と思われて、その時点で文章を読むことを止めてしまうかもしれません。

【例文の改善1】

生物に与えられた大きな特性のひとつがホメオスタシスです。

ホメオスタシスは「生体恒常性」と呼ばれている、体の状態を一定に保とうとする働きのこと。生物の生命活動に欠かせない偉大なシステムです。

ホメオスタシスのお陰で、私たちの生命や健康は維持できているのです。

補足説明(赤字)を盛り込んだことで、先ほどよりも少し理解しやすくなりました。とはいえ、この説明でもまだ理解できない人もいるでしょう。「からだの状態を一定に保とうとする……ってどういうことだろう?」という疑問が残るからです。その場合、さらに補足説明が必要となります。

【例文の改善2】

生物に与えられた大きな特性のひとつがホメオスタシスです。

ホメオスタシスは「生体恒常性」と呼ばれている、体の状態を一定に保とうとする働きのこと。生物の生命活動に欠かせない偉大なシステムです。

たとえば、体の水分量が減ると喉が乾くのも、ホメオスタシスの働きによるものです。もし喉が乾かなければ、私たちは水分量が減ったことに気づかず、そのまま死んでしまうかもしれません。

暑い日に汗が出る現象も同様です。私たちが「汗を出すぞ」と意識して出しているわけではありません。体温が上昇して生命の危機に陥らないよう、体が勝手に汗を出してくれるのです。

ホメオスタシスのお陰で、私たちの生命や健康は維持できているのです。

「喉の渇き」と「発汗」というふたつの具体例を盛り込みました。ホメオスタシスについてわかりやすく補足説明したこの文章であれば、「ホメオスタシス」という言葉に初めて出合った人でも理解できるでしょう。

読み手が知りたい情報のレベルを見極めること

筆者も文章を書くときには、徹底して「わかりやすさ」にこだわっています。少しでも「わかりにくいかな?」と感じたときは、補足説明を盛り込むようにしています。 

たとえば、以下は、本連載の以前の記事(第3回)から抜粋したものです。

伝わる文章を書くうえで、もうひとつ大事なポイントが「一文一義」を心がけることです。「一文一義」とは、句点(マル)が打たれるまでの一文のなかに、ひとつの「意味(=情報)」だけを盛り込む、という文章作成の大原則です。

この文章は、「記事を読む人の多くは『一文一義』の意味を知らないだろう」という推測のもとに書いたものです。赤字部分は「一文一義」の補足説明です。もしも、この赤字部分を省いていたらどうなったでしょうか。

伝わる文章を書くうえで、もうひとつ大事なポイントが「一文一義」を心がけることです。これは文章作成の大原則です。

読む人が「一文一義」について理解している状況であれば、この文章でも問題はないでしょう。しかし、この文章は不特定多数がアクセスできるインターネット上で公開する記事です。読む人のなかには当然「一文一義」という言葉を知らない人もいるでしょう。「一文一義」が一般的に知られている言葉でない以上、誰もが理解できる補足説明を添えなければいけません。

もちろん、補足説明をする必要のないシチュエーションで補足説明をすれば逆効果になりかねません。ビジネスシーンであればなおのこと“くどくどしい”と思われたり、「そんなことは言われなくてもわかっている!」と怒られたりするかもしれません。

あなたがいま書こうとしている“それ(=事柄)”について、読む人はどれだけ知識があるでしょうか。どれだけ深く理解しているでしょうか。読む人の知識レベルや理解レベルを見極めたうえで適切に補足説明を盛り込める人は、「わかりやすい文章」を書くことができる人です。

このエントリーをはてなブックマークに追加

そもそも文章ってどう書けばいいんですか?

「文章を書くことがストレス」「書くのに時間がかかりすぎる」「そもそも頭のなかにあることを文章にできない」……本書はそうした「文章アレルギー」のある人たちに、マンガを織り交ぜながら、わかりやすく文章の書き方をレクチャーしていきます。

著者:山口拓朗

価格:¥1,400-(税別)

オンラインストアで購入する

テキスト採用など、大量・一括購入に関するご質問・ご注文は、
弊社営業部(TEL:03-3268-5161)までお問い合わせください。

ページのトップへ