一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第3回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、「伝わらない文章」を無くすためのポイントについて。
その文章、「伝えたつもり」になっていませんか?
伝えたつもりでも、読む人には伝わっていない。「えっ、これってどういう意味?」と思われてしまう。そんな経験はありませんか? ビジネス文章を書く際に最も避けなければいけないのが、この「伝わらない文章」です。
仕事で書く文章は、読む人に何度も読み返させてはいけません。読む人に「これはどう理解すればいいのだろう……」と頭を使わせてはいけません。ましてや解釈を相手に委ねるなど言語道断です。
文章を一読した瞬間に、読み手が正しく(書き手の意図どおりに)内容を理解したとき、初めて「伝わる文書が書けた」ということになります。
- 「言葉足らず」をなくす
- 「一文一義」を心がける
このふたつが、伝わる文章を書くうえで外せないポイントです。それぞれ解説していきましょう。
「言葉足らず」は読み手の負担になる
伝わらない文章の大きな原因のひとつが「言葉足らず」です。書く人が「相手はわかってくれるはず」と思い込んでいると、本来盛り込まなくてはいけない言葉(情報)を省いてしまうのです。この場合、読む人に大きな負担と迷惑をかけてしまいます。
【例文】
本日、あいにくの雨のため、15時にお約束していたお打ち合わせを延期したく存じます。
このメールを受信した人は「んっ?」と首をひねります。「今日はたしかに雨だ。でも、なぜ雨だからといって打ち合わせを延期しなくてはいけないの? 意味がわからない……」。こんなふうに思われた時点でアウトです。この伝わらない文章の元凶が「言葉足らず」なのです。
【修正文】
本日、あいにくの雨のため、建設予定地での計測が叶いません。
実測値がわからないことには話を先に進められないため、
15時にお約束していたお打ち合わせを延期したく存じます。
省略していた情報【赤字部分】を盛り込んだこの修正文であれば、メール受信者も「ああ、そういうことか」と納得するでしょう。おそらく、メールを書いた人の頭のなかでは「雨=計測ができない=実測値が出ない」という流れが見えているのでしょう。それゆえ「そんなことはあたり前のことだから、わざわざ書かなくてもいいだろう」と思ったのかもしれません。しかし、結果的にその意図は伝わりませんでした。
自分の“あたり前”と他人の“あたり前”は同じではありません。とくに文章で情報を伝える場合、対面や電話のときのように、その場で相手の疑問や質問に答えることができません。文章というのは修正のきかない一発勝負です。読む人に首をひねらせないためには「言葉足らず」にならないよう注意しなければいけません。
「言わなくても、(読む人は)わかっているだろう」と考えるのは都合がよすぎます。そうではなく、文章を書くときには——読む人は「わからないかもしれない」「誤解するかもしれない」「(こちらの意図を)察してくれないかもしれない」——くらい厳しい前提に立つ必用があります。最低限、読む人に“疑問を持たせない”ことが「伝わる文章」の条件です。
「一文一義」が文章作成の大原則
伝わる文章を書くうえで、もうひとつ大事なポイントが「一文一義」を心がけることです。「一文一義」とは、句点(マル)が打たれるまでの一文のなかに、ひとつの「意味(=情報)」だけを盛り込む、という文章作成の大原則です。
【例文】
ご連絡が大変遅くなりましたが、ご依頼いただいていた原稿は明日の正午までには完成しますので、完成次第、メールでお送りいたしますが、内容面で誤りがないかご確認のうえ、あわせて伊藤様にも転送いただければ幸いです。
決して込み入った内容ではないものの“読みにくい”と感じる人が多いでしょう。なぜなら、一文が長く、そのなかに多くの「意味(=情報)」が盛り込まれてしまっているからです。これを「一文多義」といいます。
句点が打たれるまでに要した文字数は100以上。やみくもに読点(テン)でつなげた文章は、読む人に対して不親切な悪文です。読んでいてストレスを感じる人もいるでしょう。
【修正文】
ご連絡が大変遅くなりました。
ご依頼の原稿ですが、明日の正午までには完成します。
完成次第、メールでお送りいたしますので、
内容面で誤りがないかご確認ください。
なお、その際には伊藤様にもご転送いただければ幸いです。
新たに句点を3つ打ち、全体を4分割した結果、元の文章よりも格段に読みやすくなりました。読解力には個人差があります。一文が長くなればなるほど、誤読を招く確率は高まります。読む人にストレスを与えることなく理解してもらうためには、修正文のように「一文一義」を心がける必要があります。
なお、修正文の途中に「完成次第、メールでお送りいたしますので、内容面で誤りがないかご確認ください」という一文があります。厳密に言えば、この文章も「完成次第、メールでお送りいたします。内容面で誤りがないかご確認ください」と分割することができます。しかし、あえて分割しませんでした。なぜなら、すべての文章を「一文一義」にしてしまうと、やや棒読み調で幼稚な印象を与えかねないからです。
おすすめは「一文一義」をベースにしながらも、適度に「一文二義」を織り交ぜる書き方です。すると、ほどよいメリハリが生まれ、大人っぽい印象の文章に仕上がります。ちなみに、一文の長さの目安は、長くても60〜70文字。それ以上になってしまった場合、文中のどこかで句点が打てるはずです。
もう一度、自分の文章をチェックしてみよう!
さて、今回は伝わる文章を書くために「『言葉足らず』をなくす」と「『一文一義』を心がける」というふたつのポイントについてお伝えしました。とくに周囲から「この文章って何が言いたいの? どういう意味?」のような指摘をよく受けるという人は、ぜひ実際の文章でお試しください。
もっとも、どんな文章を書くときでも“さじ加減”が大事です。たとえば、「言葉足らず」をなくそうとする意識が強すぎて、重要度の低い背景説明やムダ話を書きすぎるようでは本末転倒です。同様に、前述のとおり「一文一義」を徹底しすぎて、文章のリズムを損ねてしまってもよくありません。
大事なことは、過不足なく情報を盛り込みながら、理解しやすくリズムのいい文章を紡ぐことです。あなたの文章に「言葉足らず」や「一文多義」はありませんか? これまで書いた文章を一度よくチェックしてみましょう。
次回は「相手を動かす文章術」というテーマでお届けします。どうぞお楽しみに。