本コラムは日本実業出版社が発行、エヌ・ジェイ出版販売株式会社が販売する企業向け直販月刊誌「企業実務」内に掲載されているコラムを転載したものです。
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2018/06/14 11:12
企業の経理・総務担当者が職場で直面する、規定集・法規集などに答えが見当たらない疑問、状況がレアケースすぎてそのまま規定を当てはめていいのかどうか迷う悩みに、プロの実務家・専門家が答えます!
※本コラムの内容について※
本コラムは、月刊「企業実務」内で連載されている同名の連載を再編集したものであり、関連法規・規定等については公開時点のものに準拠しています。
従業員50名の専門商社の総務部長です。営業事務の女性社員3名が「一緒に旅行に行きたい」と揃って有給休暇の申請をしてきました。日程はかなり先で忙しい時期ではないのですが、1人は出社してくれないと困ります。
年次有給休暇は法律上当然に与えられるもので、社員からの有給休暇の申請は消化する時季を指定する行為といえます。このため、会社には有給休暇の消化そのものを裁量する余地がありません。
たしかに一定の条件下であれば時季の変更を命じることができます。これを時季変更権といい、申請された時季に有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる」場合に、会社が有給休暇の時季を変更することができるというものです。
どのような状況がこの「事業の正常な運営を妨げる」場合に該当するかは、その社員の所属している事業場を基準として「事業の規模と内容、その社員の担当する作業の性質・内容と作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行」や「申請のあった時期」など、諸々の事情を考慮して客観的に判断すべきものとされています。
また、会社が時季変更を行なう場合には、できるだけ社員が指定した時季に休暇を取得できるよう、配慮することが求められます。このほか、代替要員の配置については、勤務割などの勤務体制による事業場で、会社として通常の配慮をすれば勤務変更による代替が可能な場合は「事業の正常な運営を妨げる場合」にはあたらないとされた例があります。また、単に慢性的な人員不足を理由として複数回、時季変更権が行使された例は違法とされています。
一方で、時季変更について会社から社員に打診し、本人の合意を前提に調整することは時季変更権の行使にはあたらず、このような制約はありません。もちろん強制的な効力はありませんが、より柔軟な対応が可能であり、現実的な解決策といえます。
ご相談の事案では、営業事務の全員が同じ日に有給休暇を申請しており、担当業務に欠員の生じることを懸念されています。このケースが時季変更権を行使できる「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたるかは、営業事務の事業全体での役割や、他部署の社員による業務の代替が可能かどうか等により判断されます。
今回は相当の期間をおいて前もって忙しくない時期を選んで申請がされたとのことですので、社員側に相応の対案があるのかもしれません。どうしても必要というのなら社員1人に時季変更を求めることになるでしょうが、それは最後の手段として、全員とよく話し合い、当日前後にとり得る対応について協議、調整されてみてはいかがでしょうか。(企業実務 16年8月号より転載)
しおざわ労働法務事務所代表。中小企業の労務顧問として、多業種の人事労務コンサルティング業務に携わり、行政調査等の官公庁への対応、職場トラブル対応等の支援に実績がある
振替休日を半日単位で取得させるという方法の逆に、法定外休日の土曜日を2日半日出勤にして、その振替をたとえば水曜日1日に設定する、というのは法的に可能でしょうか。ご教示ください。
貴社が週休2日制(土曜日・日曜日)で、日曜日が法定休日、土曜日は法定外休日という前提でお答えします。振替休日は法定休日に関するルールなので、法定外休日である土曜日についてはそのルールに従う必要はありません。半日出勤2日分を他の日1日の設定とすることは可能です。
労働基準法では、毎週1回または4週4日の休日のことを「法定休日」と定めています。したがって、企業で定めているその他の休日は「法定外休日」として区別されます。同法による休日労働日は、「法定休日」労働日のことであり、「法定外休日」労働日の場合は休日労働に該当しないことになります。
実務では、両者とも単に休日労働と表現することが多いのですが、どちらが「法定休日」なのか法的区分ができていないと間違った解釈になりますので注意が必要です。法定休日は1暦日単位と定義されていますので、振替休日も1日単位としなければなりません。
一方、法定外休日は同法のルール外なので、半日単位の取得も就業規則等で規定することで可能になるわけです。今回のご質問の土曜日は法定外休日とのことですから、同様に同法のルール外です。土曜日に2日半日出勤した分を他の1日と設定して振替えることは、同様に、就業規則等で規定化することで可能になります。
こうした取扱いの際には、割増賃金の計算方法に注意しなければなりません。法定外休日の土曜日に半日勤務して半日の振替休日を同一週内で振替える場合(単にチェンジする)には、1週の法定労働時間を超えないため、割増賃金は生じません。
注意が必要なのは、同一週以外に振替えた場合です。土曜休日を同一週以外に振り替えた場合には、休日を他の週に振替えることによって、その週の労働時間が法定労働時間を超える場合は、時間外労働分の割増賃金が必要となります。(企業実務 16年9月号より転載)
私鉄系不動産会社で総務人事を担当したのち、日本橋賃金コンサルタント 社会保険労務士小岩事務所を開設。人事労務コンサルタントとして一部上場企業からベンチャーまで支援。