世襲について 芸術・芸能篇

発売日 2002.11.27
著者 竹内誠 監修
判型 四六判/上製
ページ数 270
ISBN 978-4-534-03503-5
価格 ¥2,200(税込)

歌舞伎や日本舞踊、能・狂言、茶道・華道など技芸の世界の世襲について考察。自分が受け継ぎ、編み出した技なら、誰しもが次代へのバトンタッチを考える。「襲名」「家元制度」のもつ意義やしくみ、「一子相伝」の厳しい実態など、事例を紹介しながら解剖する。

≪章立て≫
序章 いま、なぜ世襲なのか
1章 芸にとって世襲とは
2章 名門の強みはどこに
3章 何を学ぶ、歌舞伎のそれに
4章 歴的な課題を超えて
5章 “美しき裏方”の役割とは
6章 次代へ向けて芸の継承は

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はじめに 「監修のことば」に代えて /竹内誠

序章 いま、なぜ世襲なのか ── “物から心へ”の転換期に、真の熟成を /竹内誠

 ◇“伝統”と“創造”が相俟ってこそ  12

   江戸文化を色濃く演出する大相撲

   時代に応じた改革が隆盛を呼ぶ

 ◇芸道それぞれに家元制がしっかりと  18

   多くの文化人口に支えられて

   勝負の世界に世襲制は馴染まないか

 ◇もし世襲がなかったら日本文化は?  27

   “江戸ブーム”が意味するもの

   伝統を踏まえた創造に世襲の意義が…

1章 芸にとって世襲とは ── 先達を超えんとする“熱き想い”が… /藤田洋

 ◇技芸の継承とは“形無きもの”である  32

   武家は禄高、商家は暖簾…

   いつの時代も安穏な世襲などない

 ◇“伝承”は滅んでも、“伝統”は続く!  36

   後継者不在で古浄瑠璃は途絶えた

   ほどよい主従関係と能力重視とが

   “伝承芸”に時代の風を吹き込んで

 ◇血筋か、実力か、それとも人気か…  42

   文楽は血筋よりも実力主義を貫く

   “流儀第一”の結束を誇る観世流

   宗家継承をめぐる狂言界の複雑な事情とは

   古典か新作かで揺れる

 ◇かくして“名家・名跡”は生まれる  53

   “名門”の名門たる所以は?

   一代で築く“門閥”もある

   大名跡にこだわるか、一代で名を上げるか

 ◇家を継ぐのは“芸才”に秀でたもの  62

   多様な“養子システム”のもとで

   父祖(名優)の価値を誇示しながら

2章 名門の強みはどこに ── 一家一門をあげて人(と芸)を磨き抜く /藤田洋

 ◇純血の“危うさ”をも熟知して  68

   次代の繁栄を英才教育に託す

   外部の“良血”を引き込んで

 ◇「家の芸」と「襲名」が名家を支える  72

   “十八番”の威力とは

   “芸の型”はなぜ上方にはないのか

   形をなぞる前に、学ぶものがある

 ◇大名跡には常に至高の条件がともなう  79

   親の願いと後継者の思いと

   由緒あるブランドほど“空白”を恐れない

 ◇千年余の歴が醸し出す“収まり”のよさ  86

   家元は社長、宗家は会長に相応?

   文化の形成に関わってきた説得力

 ◇まず“人間形成ありき”の「芸は人なり」  90

   襲名の「名」とは「命」のことだ

   孫・子といえどもライバルに

   “芸の修練”は、まさに“人間修行”なり

 ◇伝統芸を継ぐ“ひたむきな覚悟”こそが  97

   一門をあげて命がけで取り組んで

   “名門の子”には華がある!

3章 何を学ぶ、歌舞伎のそれに ── 悠久の時が“代々の客と名優”を育む /鈴木英一

 ◇「襲名」と「追善」を二本柱にして  106

   祖の芸との連続性を求めて

   なぜ三男が「仁左衛門」の名跡を?

   役者は“名前”によって育てられる

 ◇臨機応変に名跡を乗り換える“柔軟さ”  113

   名作『残菊物語』における菊五郎家の人びと

   「内に跡継ぎがいなければ外でつくれ」

   出された養子が一転「團十郎」を

 ◇そこに“攻撃的な世襲”を見た  123

   名跡はあくまで「芸に譲る」

   その“心・技・体”は相撲の横綱に同じ

 ◇芸の真髄は「稽古場」の中から  128

   芸の継承には基準も到達点もない

   代々受け継ぐ“お家芸”という証し

   役者は“歴史的な身体”にこそ値打ちが

   “肉体伝承”は稽古場に始まる

 ◇御曹司を“蝶”に育てる伝統の威力  137

   番頭格「師匠番」の存在があって…

   御曹司は“寄ってたかって”鍛えられる

   一門という名の“家族集団”に

   世襲だからこそ“時”が役者を大きく育む

4章 歴的な課題を超えて ── 連綿たる“文化の担い手”としての自覚 /鈴木英一

 ◇時として世襲は“結果責任”が曖昧に  150

   役者の離婚への冷めた反応が…

   なぜ“結果責任”が問われない?

 ◇宿命的に“芸”と“金”とが併存する  159

   かの世阿弥でもわが子可愛さで

   “血縁カリスマ”を核にして

   世襲も経済的安定があってこそ

 ◇芸という“利益の継承”には危険な側面も  167

   100%の継承は亜流にすぎず

   選ばれし者が時に陥る落とし穴

 ◇まさしく“秘伝書”は人を選ぶ!  172

   修行の裏付けのない“お墨付き”は空疎なもの

   虎ノ巻が威力を見せるとき

   「鐘の音」は身体のどこで聞くか?

 ◇グレーシー柔術の盛衰に問題の本質が  180

   スポーツ化した柔道の対極として

   ここでも経済的豊かさが仇に

 ◇創始者につながる連続性が家元制を存続  186

   “型と免許”を基盤にして家元制は成立する

   権力に距離を置いた千家のジレンマ

   池坊の門弟が自ら世襲制を支えて

5章 “美しき裏方”の役割とは ── 名跡の“橋渡し役”は幾つもの顔をもつ /秋山勝彦

 ◇梨園の妻たちは人知れぬ重責を担って  198

   ライバル(と子)の間をとりもつ貴重な存在

   役者夫人は一人で四役を

 ◇二人三脚で新しい夫婦像をつくり出す  204

   中村鴈治郎夫人・林寛子(扇千景)──信頼と対等の“共力”体制で

   日本舞踊家元とも鼎立させて──中村翫雀夫人・林英津子

   尾上菊五郎夫人・寺島純子の場合──人気女優が大名跡の復活を支えた

   ひたむきな『高麗屋の女房』として──松本幸四郎夫人・藤間紀子

   片岡仁左衛門夫人・片岡博江は──“同級生妻”が芸能一家の支柱に

   義父・歌右衛門の杖となって──中村梅玉夫人・河村有紀子

 ◇名優を支え、後継者を育てた賢夫人たち  215

   手厳しい批評家の二代目段四郎夫人

   容赦なく息子を叱った三代目歌六夫人

   名優を全うさせた六代目菊五郎夫人

   橋渡しの約束を果たした初代白鸚夫人

 ◇いま、伝統芸能への女性の新たな進出で  226

   京舞はまさに“女によって”

   女流囃子方・田中佐太郎の異色ぶり

6章 次代へ向けて芸の継承は ── 競い合う“血縁”と“芸縁”のなかで /秋山勝彦

 ◇襲名披露で示した“血筋継承”の真価とは  234

   父祖の芸を華麗に三津五郎が伝えて

   役者も世襲、観客もまた世襲!

 ◇坂田藤十郎の復活に見る時代を超えた“芸の力”  239

   時を超え、血筋を超えて

   襲名に血縁云々の話が出る幕はない

 ◇こぞって逸材の発掘に、若手を徹して鍛える  243

   超一流の面々が育成に立ち上がって

   在野の人材が裾野を広げる

   頭角を現わす名脇役たちは

 ◇革新の“火付け役”としての猿之助と玉三郎  250

   新しい芸へ“火の玉”のごとく

   直系の猿之助がむしろ門外の“血”を

   一子相伝を門下全員で

   血統が絶対ではないことを玉三郎が教えた

   “血縁”に“芸縁”がプラスされて新たな黄金期到来の予感が…

あとがき /服部幸雄

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