普段、自分が何にお金を払っているのかを意識していますか? 現金を持たずとも買い物ができるようになり、気がつくと使いすぎてしまっていることが増えているのではないでしょうか。今回は、自分にとって本当に価値のあるものにお金を使うために、「価値判断基準」をつくる方法を紹介する『教養としてのお金の使い方』(午堂 登紀雄)から、「はじめに」を抜粋して公開します。

はじめに

私たちを取り巻く経済・金融の環境はものすごいスピードで変化しています。たとえばクレジットカードはもとより電子マネー、QRコード決済などの普及によって、物理的な現金を扱う機会が減っています。

するとお金は目に見えない単なる数字・記号となり、自分は何にお金を使うべきか、どんな価値にお金を払っているのかを、あまり考えずに気軽に支出してしまう状況が生まれやすくなります。

一方で企業はあの手この手で私たちに消費させようとします。たとえばワンクリックで瞬時に買い物ができる、一度見た商品やその類似の商品が洗脳かと思うほど何度もパソコンやスマホの画面上に表示される、サブスクリプションで割安に見せられる、「もうすぐ売り切れ!」「あと〇〇個!」などと焦らせるなど、執拗とも思えるマーケティングに日常的にさらされます。

さらにはSNSが浸透してくると、口コミやレビューなどといった他人の意見を参考に消費を決める頻度が増えます。自分の価値判断基準を信じるのではなく、「他人がいいと言うから」という理由で、自分が何に支出すべきかという判断を他人に委ねてしまう。

あるいはキラキラした誰かの投稿を見てうらやましく感じ、自分も友人知人にウケたいと「映え」のためだけに高額な消費をすることもあります。

その結果、本当はもっと有効なお金の使い道があったのに、その余裕がなくなってしまうかもしれない。

周囲のみんなは素敵なレストランで外食できるのに、それができない自分は貧乏なんだと絶望してしまうかもしれない。

そんな生き方は誰も望んでいないと思います。

そこで本書では「教養としてのお金の使い方」を提唱しています。

一般的に言われる教養とは、社会生活を営むうえで必要な文化に対する広い知的基盤や心の豊かさを指しますが、「教養としてのお金の使い方」とは「自分の人生を豊かにするお金の使い方」です。

前書『頭のいいお金の使い方』(日本実業出版社)でも述べたとおり、私たちはお金を使いながら人生を形成しています。

お金はほとんどの問題を解決できる万能ツールですが、同じ包丁でも人が喜ぶ料理をつくれる一方、誰かを傷つけることもあるように、使い方によっては「生き金」になることも「死に金」になることもあります。

そこでいかに死に金を減らし、生き金となるお金の使い方を実践するかを学ぶことで、豊かな人生にしようというのが前書のテーマでした。

本書はそこからもう一歩踏み込んで、「読者の価値判断基準を揺さぶる」試みをしています。

というのも、「自分の考えと異なる主義主張に触れたとき、自分の価値判断基準を見直す契機になる」からです。

たとえば大学教育などでよく聞く一般教養は「リベラルアーツ」とも呼ばれ、これは「自由への技法」つまりさまざまな束縛から解放され自由に生きるための技術でもあります。

固定観念や先入観などにとらわれると、自由な発想や物事の深い理解、あるいは応用ができなくなるためです。

そこで本書でも「自分の思考の枠を超え、お金を使うことで認識できる世界を広げていく」材料の提供に注力しました。

本書はあくまで私個人の考えをベースに論じていますが、そのなかには「それは違うんじゃないの?」「自分はそうは思わない」というものも出てくると思います。

すると、自分の主義主張の弱さを埋めようと考えたり、全部は賛同できなくても部分でもいいと感じる考えを取り込んだり、別のもっとよい第三の方法を編み出したりなど、自分の思考の枠を超えるチャンスでもあるのです。

そうやって獲得した教養は、より戦略的なお金の使い方を考える土台になります。

「戦略的」とは、自分の目的を達成するための最短かつ合理的な方法論のことですが、これを自分の力だけで考え実践できるならば、どんな時代環境でも有利に快適に生き抜くことができるでしょう。

円安、インフレ、金利上昇など、個人を取り巻く経済環境は悪化しているようにも思えますが、「ピンチはチャンス」とも言われるように、視点を変えれば機会を創出しやすい環境でもあります。

本書ではそのヒントを多数紹介していますので、ぜひ「教養としてのお金の使い方」を身につけ、自分の人生を有利に展開するきっかけになれば、著者としてうれしく思います。


午堂登紀雄 (ごどう ときお)
1971年岡山県生まれ。中央大学経済学部卒。米国公認会計士。大学卒業後、東京都内の会計事務所にて企業の税務・会計支援業務に従事。大手流通企業のマーケティング部門を経て、世界的な戦略系経営コンサルティングファームであるアーサー・D・リトル で経営コンサルタントとして活躍。2006年、株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。現在は個人で不動産投資コンサルティングを手がける一方、投資家、著述家、講演家としても活躍。『捨てるべき40の「悪い」習慣』『「いい人」をやめれば人生はうまくいく』『孤独をたのしむ力』(いずれも日本実業出版社)、『33歳で資産3億つくった僕が43歳であえて貯金ゼロにした理由』(日本経済新聞出版社)などベストセラー著書多数。