人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

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稲城市の小字、於部屋

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2024/08/20 10:06

国土地理院のネット地図「地理院地図」を見ていたら、神奈川県と東京都の都県境付近に「於部屋」という地名をみつけた。他の地図には見えず、小字らしい。地理院地図は小字も一部表示されるため。しばしば見たことのない地名に出会うことができる。

さて、「於部屋」である。最初見たときは「おべや?」と思ったが、どうやら「おへや」らしい。とりあえず、猛暑の中現地に行ってみた。於部屋地名があるのは、京王線若葉台駅の近く。川崎市麻生区にある若葉台駅の北口に降りると、駅前はすぐ東京都稲城市。この稲城市坂浜地区に「於部屋」がある。

このあたりは、多摩丘陵を開発してできた住宅地で、駅から800mほど歩くと、中央分離帯のある立派に道に面したところに「於部屋」バス停があった。そこからさらに400mほど先には「於部屋八幡社」もある。

於部屋八幡社

ところで「於部屋」とはなんだろうか。てっきり何かの当て字だと思っていたが、どうやら違うらしい。ここは古くから集落のあった場所で、この地を治めていた富永氏の「御部屋様」(側室)が住んでいたという伝承があるという。

武蔵の富永氏といえば、小田原北条氏の重臣である。江戸時代は旗本となったはずなので、『寛政重修諸家譜』を調べてみた。すると、第四五三に宇多源氏佐々木氏庶流として富永氏が掲載されていた。

それによると、北条氏康・氏政・氏直に仕えた重吉は、北条氏滅亡後に徳川家康に仕えて旗本となり、武蔵国に所領を得たとある。そして、その弟の尊栄は「武蔵国多摩郡坂浜村高勝寺の住職たり」と書かれている。高勝寺は於部屋バス停からさして遠くないところに現存する。

さらに坂浜村の名主は富永氏の一族がつとめたといい、どうやら本当に御部屋様が住んでいた可能性が高そうだ。

 

 

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