一生モノのスキルになる!
『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法 <連載第74回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に精通する山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は「文章を書く前の心得」について。
仮タイトルを羅針盤に文章を書こう
「文章がぐだぐだになりがち……」
「文章を書いているうちに、あっちこっちに話が飛んでしまう」
「自分でも何を書きたいのか、わからなくなってしまう」
そんな悩みをお持ちの方は、文章を書く前に、その文章に仮タイトルをつけてみましょう。
話がまとまらない原因は、書くべきこと(=メッセージ)が、明確になっていないからかもしれません。「仮タイトルをつける」ということは、書くべきこと(=メッセージ)を明確にする作業にほかなりません。
仮タイトルをつけるときに意識したいのは「シンプルさ」と「明快さ」です。書く前につける仮タイトルは、誰かに興味をもたせるキャッチコピーではありません。あくまでも書き手自身のために用意するものです。
いま、あなたが読んでいるこの記事を書く際、筆者は「文章を書く前に仮タイトルをつけよう」という仮タイトルをつけました。このワンメッセージを伝えるためだけに、わたしは今、この原稿を書いています。あらかじめ書くべき内容を明確にすることで、文章が脱線したり、右往左往したり、余計なノイズが入り込んだりするリスクを減らすことができます。
また、仮タイトルさえ決めておけば、書いている途中で脱線しかけたときにも、グっと踏みとどまることができます。そう、仮タイトルが、自分の文章が進むべき方向を示す「羅針盤」の役割を果たしてくれるのです。
タイトルを公表したいときはどうすればいい?
なお、書く前につけた仮タイトルは「読む人に公表しなければいけない」ということではありません。文章を書き終えたら“お役御免”です。
もちろん、本稿のように、冒頭でタイトルを公表するケースもあるでしょう。その際は、読む人の興味を引くことを目的に、キャッチコピー的な要素を加えましょう。つまり、仮タイトルをアップデートしていくのです。
たとえば、本稿では、最終的に「文章が散漫になりがちな人のための秘策」というタイトルにしました。そちらのほうが、書き手向けの仮タイトル「文章を書く前に仮タイトルをつけよう」よりも、読者に読まれやすくなると判断したからです。
くり返しになりますが、読む人の興味・関心を引く目的のタイトルとは異なり、仮タイトルは、あくまでも、書き手が伝えなければいけないメッセージを明確にし、ブレない文章を紡ぐためのものです。
文章を書く前に仮タイトルをつける習慣が身につくと、頭の中が整理されやすくなるほか、メッセージを伝える力も磨かれていきます。とくに、文章を書く際、話がまとまらなかったり、あっちこっちに話が飛びやすかったりする人にはオススメ。仮タイトルという名の羅針盤を用意してから、文章作成という名の航海に出ましょう。
山口拓朗(やまぐち・たくろう)
伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、2002年に独立。26年間で3600件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて、「1を聞いて10を知る理解力の育て方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「伝わる文章の書き方」などの実践的ノウハウを提供。著書に『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)、『マネするだけで「文章がうまい」と思われる言葉を1冊にまとめてみた。』(すばる舎)、『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(以上、日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)、『ファンが増える!文章術——「らしさ」を発信して人生を動かす』(廣済堂出版)ほか多数。