マインドフルネスとは周囲の状況について価値判断をせず、「今、ここ」に集中している平穏な心の状態を指します。近年、写真を撮ったり見たりする行為が、マインドフルネスに効果的だということが、科学的にも明らかになってきました。写真を撮ることが、なぜ心の平穏に繋がるのか。石原眞澄さんが上梓した『「撮る」マインドフルネス』から、「はじめに」を紹介します。

写真を使って「今、ここ」に意識を向ける

この本では、「写真を撮る・観る・言葉にすることで、マインドフルネスの効果を得る方法」を、多くの心理学の研究で証明された結果にもとづいて紹介します。マインドフルネスとは、「良い・悪いなどの価値判断をすることなく、今この瞬間に注意を向けている状態」を指します。この状態でいられれば、感情に振り回されることなく心がおだやかになります。

楽しみながら写真を撮って、観て、それを言葉にするという3ステップで、考え方や生き方、そして人生までが劇的に変わってしまうのです。それが「撮るマインドフルネス」です。

「写真で人生が変わるなんて、大げさな……」と思われるかもしれませんが、本当です。「霧が晴れたように毎日が楽しいです」「いろいろなことに取り組む気力が湧いてきました」「幸せになっていいと思えるようになりました」……これらは私の講座に参加したみなさんから実際に寄せられる声の一例です。それはもう、本当にうれしそうに報告してくれます。

では、なぜ写真にこのような力があるのでしょうか?

ひと言で言うと、あなたが撮った写真はあなたの「写し鏡」だから。じつは、写真には目に見えない撮り手の気持ちも写っています。あなたは、その写真で本来の自分自身に出会うこと ができるのです。

この本の大きな特徴は、一般的なマインドフルネスの本とは異なり、写真を使ったアプローチを紹介していることです。視覚的な要素と感情を組み合わせて、深い自己理解と心の平穏を自分自身で探究できます。

本書の後半では具体的な写真のテーマやレッスンを盛り込み、実践的なガイドとなるように工夫しました。この方法の魅力は、実践のハードルが非常に低いことにあり、カメラやスマホ(スマートフォン)があれば、いつでもどこでも実践できます。

これからお伝えする「撮るマインドフルネス」は、「上手な写真の撮り方」ではなく、「写真に写った自分の気持ちを読み取り、言葉にしていくことで、自分を理解して、心をととのえる方法」です。私自身も、写真に救われ、写真によって人生が変わった経験があります。自分自身の経験と多くの研究の成果を通じて、写真の持つ驚くべき力をみなさんに伝えたいという想いから、この本を執筆しました。

本書を通じて、日常のなかで撮る写真が、ただの記録や思い出だけでなく、心身の健康を取り戻すツールとして活用できることを知り、実践していただけるように構成しました。「今、ここ」を心から楽しみながら、ありのままの自分を肯定する新しい習慣をはじめてみましょう。


石原眞澄(いしはら ますみ)
医学博士、写真家、一般社団法人フォトサイエンスソサエティ代表理事、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター外来研究員、日本ポジティブサイコロジー医学会・日本心理学会・日本認知症予防学会会員。写真で心身ともに回復した経験から、科学的な写真の効果に興味を持つ。東北大学大学院医学系研究科脳機能開発研究分野博士課程修了。ナショナルセンターの研究員として、ポジティブ心理学にもとづいた独自の写真プログラムの実証研究を開始。高齢者を対象にした研究で気分改善効果を確認し、気分障害やうつ予防、認知症予防への非薬物療法の一選択肢として写真の有効性を実証中。1999年からカルチャーセンター、大学、病院などで、心が元気になる写真講座を主催し、小学生から高齢者まで幅広い年齢層の人々に写真の力を伝えている。2023年に一般社団法人を設立し、エビデンスのある写真プログラムの社会実装と更なる研究を実施中。著書に、『光の神話 心の扉を開くピンホール・アートフォト』(誠文堂新光社)、『9日間で自分が変わるフォトセラピー』(リヨン社)。