「売上高」「費用」「利益」「減価償却」……ビジネスパーソンなら日常よく耳にする会計用語。でも、それぞれの意味を正確に理解しているかと問われれば、自信のない方も多いでしょう。そもそも、「会計」とはどういうものなのでしょうか……。ブライトワイズコンサルティング代表で、公認会計士・税理士としてビジネススクールなどで教鞭も取る会計のプロ・金子智朗さんが解説します。

※本稿は『教養としての「会計」入門』(金子智朗 著)を抜粋・再編集しています。

会計がやりたいことは単純明快

とかく難しいというイメージを持たれがちな会計ですが、会計がやりたいことは極めて単純明快です。それは、会社が儲かったかどうかを知りたいということです。

では、「儲かった」とは、どういうことでしょうか。そう聞くと、「それは利益が出たということでしょ」という答えが聞こえてきそうです。

では、「利益」とはなんでしょうか。「儲かる」というのは個人に関しても言いますが、個人の場合、「儲かったとは利益が出たこと」とはあまり言わないと思います。それは、個人にとっての利益とは何だかよくわからないからです。

個人であれば、どういうときに「儲かった」と思うでしょうか。たとえば、300円の宝くじを買って、それを上回る当たりが出たようなときに「儲かった」と思うのではないでしょうか。競馬などのギャンブルもそうですね。買った馬券の金額を上回る配当が得られれば、やはり儲かったと思うでしょう。

これが「儲かる」ということです。すなわち、元々持っていたお金を増やすことができたとき、人は「儲かった」と思うわけです。もう少し一般的な言い方をすれば、持っている財産が増えた状態、それが儲かったということです。

会計が明らかにしたいことも結局はこれです。会社が儲かったかどうか、すなわち、会社の財産が増えたかどうかということを知りたいのです。

複雑に見える会計も、やりたいことは極めてシンプルです。

会社は人様のお金で仕事をやっている

会計を理解するうえで明確にしておくべき大前提があります。それは、会社は基本的に人様のお金でビジネスをやっているということです。

よく言われるように、会社の目的は利潤の追求です。要するに、お金儲けが目的ということです。

お金儲けをしようと思ったとき、最も単純な発想は、お金儲けをしようと思った人が元手資金をすべて用意し、全責任を自分で負って好きなように経営し、儲かったならそれは全部自分の懐に入れるということでしょう。

元手資金の出し手も、その資金の管理(=経営)もすべて自分でやるという、この形態の会社は、合名会社や合資会社と呼ばれるものです。

合名会社や合資会社は、お金儲けの手段としては、実は最も素直な発想に基づく会社形態ですが、現在においてはこの形態の会社はほとんど見られません。創業者(=お金儲けしたい人)やその関係者など、数人が出せる資金の額など高が知れているため、小規模なビジネスしかできないからです。

会社の目的と株式会社とは?

そこで考え出された仕組みが株式会社という形態です。株式会社では所有と経営を分離します。すなわち、資金の出し手(=所有者)と、そのお金の運営(=経営)を分離するのです。こうすれば不特定多数の人から資金を集めることが可能になるので、極端な話、1人1円しか出さなくても、それを1億人から集めれば1億円の資金調達が可能になるわけです。ちりも積もれば山となる方式です。

それでも足りなければ銀行の出番です。

このように、現代の株式会社は、経営に直接関わらない多くの株主と銀行という、人様のお金でビジネスをやらせてもらっているのです。

このことは、会計の目的に深く関係します。先ほど、会計の目的は儲かったかどうかを知ることだと言いました。その「儲かった」とは誰の目線で言っているのかということです。

会社で働いている人の多くは、とかく一人称を自分や会社にして考えがちです。しかし、株式会社のオーナーは株主です。「儲かった」というのも、基本的に株主目線で見ているということはちょっと重要です。(後編「2つの会計」へ続く)


著者プロフィール:金子 智朗(かねこ ともあき)

コンサルタント、公認会計士、税理士
1965年生まれ。東京大学工学部、同大学院修士課程修了。日本航空(株)において情報システムの企画・開発に従事しながら公認会計士試験に合格後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現PwCコンサルティング)等を経て独立。現在、ブライトワイズコンサルティング合同会社代表。会計とITの専門性を活かしたコンサルティングを中心に、企業研修や各種セミナーの講師も多数行なっている。名古屋商科大学大学院ビジネススクールの教授も務める(ティーチング・アウォード多数回受賞)。著書に、『MBA財務会計』(日経BP)、『「管理会計の基本」がすべてわかる本』(秀和システム)、『ケースで学ぶ管理会計』『理論とケースで学ぶ財務分析』(以上、同文舘出版)など多数。