一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第51回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、説得力のある文章を書くための「理解力」について。
説得力がある文章を支えるのは「理解力」
「説得力のある文章を書きたい」「人から信頼される文章を書きたい」という人の多くが、「書き方の技術を磨きたい」という気持ちを持っています。
しかし、書き方の技術を身につけるだけで、説得力のある文章や、信頼性の高い文章を書けるようになるでしょうか? 答えはノーです。
なぜなら、文章作成においては「文章の中身」が極めて重要だからです。いくら書き方の技術を磨いても、中身がなければ(弱ければ)、その文章の説得力や信頼性は高まりません。
では、「文章の中身」を下支えしているものは何でしょう? それは、書き手自身の「理解力」です。その書き手が「何を」「どの程度」理解しているかによって、文章の中身は大きく変化します。
物事を正しく理解していなかったり、理解が浅かったりすると、その「不正確さ」や「浅さ」は文章にも表れてしまいます。一方、物事を正しく、深く理解している人の文章は、多くの場合、高い説得力と信頼性を兼ね備えています。
「冷蔵庫」を詳しく説明できますか?
理解力において、押さえておかなくてはいけないことがあります。それは、“その対象”のどこに光を当てるかによって、理解の「ある・なし」や「高い・低い」が変化する、という点です。
いきなりですが、あなたは冷蔵庫についてどれくらい理解していますか?
「えっ、冷蔵庫? 食料品などを低温で保管するための電化製品……ですよね?」
あなたも、似たような答えではないでしょうか。たしかにそのとおりです。では、あなたは、冷蔵庫について「理解している」と言えるでしょうか? 先ほどの答えは、あなたが「冷蔵庫の使用目的」について理解をしている、という証明にすぎません。
では、もうひとつ質問です。あなたは以下の1と2について説明できますか?
- 冷蔵庫が冷える仕組み
- 冷蔵庫の発祥や歴史
「うーん」と頭を抱えてしまったことでしょう。おそらく、まったく説明できないという人がほとんどで、少し説明できる人が少数、詳しく説明できる人は稀でしょう。つまり、わたしたちは「冷蔵庫の使用目的」については理解していますが、それ以外の点については、あまり、というより、ほとんど理解していないということが言えます。
このように、その対象のどこに光を当てるかによって、理解の「ある・なし」や「高い・低い」は変化します。説得力や信頼性の高い文章を書いている人ほど、自分が書く文章の内容について「何を」「どの程度」理解しているか、という点に自覚的です。
「理解したつもり」の壁を乗り越える
では、「何を」「どの程度」理解しているか――に自覚的になるためには、どうすればいいのでしょうか?
それは、常に「理解したつもり」という壁を乗り越えていく意識を持つことです。
「理解したつもり」になった瞬間、そこで理解力の伸びは頭打ちとなります。先ほどの冷蔵庫がいい例です。「冷蔵庫の使い方を理解した=冷蔵庫を理解した」と思った瞬間にそれ以外の側面に光を当てることをしなくなります(そもそも、そうした側面があることに気づかない人もいます)。
もちろん、「冷蔵庫が冷える仕組み」や「冷蔵庫の発祥や歴史」を勉強しましょう、と言っているわけではありません(筆者も知りません)。大事なのは、書き手が頻繁に扱っているテーマや情報について、安易な(一元的な)理解で済ましているとしたら、それは危険だということです。
その対象にも、今見えている面以外にさまざまな側面があるはずです。そうした側面にも光を当てられる人と当てられない人の差が、すなわち、説得力や信頼性が高い文章を書ける人と、そうでない人の差なのです。「理解したつもり」という壁を乗り越えていける人だけが、真に説得力・信頼性の高い文章を書いていける人です。あなたは「理解したつもり」になっていませんか?
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