一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第50回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、「言いにくいこと」をなるべくソフトに伝える方法について。
言いにくいことの先延ばしはお互いにストレス
ビジネスシーンでメールやチャットを書く際、「言いにくいこと」を先延ばししてしまう人がいます。
【「言いにくいこと」の一例】
・相手の依頼や誘いを断るとき
・相手の意向に添えないとき
・自分のミスを報告するとき
「言いにくいこと」について、言葉を濁したり、婉曲的に伝えたり、隠したりするのはよくありません。相手に迷惑がかかるだけでなく、巡り巡って、言わなかった本人がダメージを受けかねません(周囲からの信頼を下げる等)。
「言いにくいこと」ほどスピーディかつ明確に相手に伝える必要があります。
【原文】
キャンペーン企画の件ですが、費用対効果に懸念がございます。
とはいえ、コンセプトは悪くありません。
引き続き、検討いたしたく存じます。
本当に検討する気があるならともかく、この時点で「却下しよう」と決めているとしたら、原文の書き方は不誠実です。相手に変な期待をもたせてしまうからです。
【改善文】
◯◯の企画の件ですが、熟慮の結果、採用を見送らせていただきました。
費用対効果が低いという結論に達したためです。
ご期待に添えず、誠に申し訳ございません。
恐れ入りますが、ご理解、ご了承いただけますと幸いです
検討する気がないなら、改善文のように不採用の旨をはっきり伝えましょう。
自己防衛のための「先延ばし」は、伝える側にとってもリスクが小さくありません。後日、正式に断らなければいけないほか、気をもんだ相手が頻繁に連絡を入れてくるかもしれません。
また、「先延ばし」していることに罪悪感を覚え、心理的な負担を感じる人もいるでしょう。「先延ばし」をすることでムダなコスト(時間・労力・心理面)をかけることになるのです。
お世話になっている人からの誘いの断り方
あなたは、親しい取引先の担当者から「○○イベントに参加しませんか?」とお誘いを受けましたが、断ろうと考えています。そんな時、どんなメールを書きますか?
【原文】
○○イベントにお誘いいただき、ありがとうございます。
11日ですが、まだ予定が見えません。
スケジュールが見えた段階で、改めてご連絡いたします。
【改善文】
○○イベントにお誘いをいただき、ありがとうございます。
あいにくその日は所用があり、参加がかないません。
またの機会にお誘いいただけますと嬉しいです。
参加する気がないにもかかわらず、原文のような返信をしているとしたらアウトです。思わせぶりな「先延ばし」は相手に迷惑をかけてしまいます。
もちろん、ストレートに「参加しません」と伝えればいいということではありません。改善文で示した「あいにくその日は所用があり〜」のように、相手が納得しやすい理由を添えましょう。「あいにくその日はすでに予定が入っており〜」のようなフレーズでもいいでしょう。
また、「参加できません」は「参加がかないません」と書くことで印象がソフトになります。あなたが今後もお誘いを受けたいようなら、「またの機会にお誘いいただけますと嬉しいです」「これに懲りず、またお誘いいただけますと幸いです」のような言葉で結びましょう。
自分のミスを上司へ報告するときの伝え方
次はミスの隠蔽例です。あなたのミスによって、クライアントのAさんからクレームを受けました。あなたは、その一部始終を上司にメールで報告しなければいけません。
【原文】
先ほど井上さんから○○の件で、お問い合わせをいただきました。
少し行き違いがあり、誤解が生じたものと思われます。
明日電話を入れて、もう少し詳しく話を聞いてみます。
【改善文】
先ほどBさんから○○の件でお叱りを受けました。
わたしの伝え方が悪く、□□について△△という誤解を与えておりました。
すぐにお詫びし、現在、対応策として◇◇を進めております。
完全にわたしのミスです。申し訳ございません。
「責任逃れ」しようとしている原文に対し、改善文では自分の非を認めたうえで、対応策を進めている旨を伝えています。自分のミスを隠さず、スピーディに報告できる人は、相手や周囲から信用を得やすくなります。まさしく「ピンチはチャンス」です。
「言いにくいこと」を言わずにいた場合、「バレたらどうしよう……」とハラハラすることになります。これは精神衛生上も最悪で、仕事への集中力も削がれます。もちろん、状況を放置すれば大問題に発展することもあります。
人を巻き込んでのは「先延ばし」は、大きなトラブルを誘発するリスクも秘めています。身に覚えのある方は注意しましょう。