共働きが当たり前になった現代。出産・子育てと仕事を両立できるよう、国が設けた仕組みの1つが「産休・育休制度」です。では、職場の環境整備を担う総務担当者として、どのような点に留意すればよいのでしょうか。制度運用に詳しい特定社会保険労務士の宮武貴美さんが、2022年4月から順次施行される「改正育児・介護休業法」をふまえてポイントを解説します。

▶別項「子育てと仕事の両立支援【1】」では、「労働基準法」で義務づけられた母性保護と、「男女雇用機会均等法」による母性健康管理についてお話ししました。本稿では、「育児・介護休業法」における育児支援について見ていきます(「育児・介護休業法」の介護に対する支援については割愛します)。

※本稿は『新版 総務担当者のための産休・育休の実務がわかる本(宮武貴美 著)を一部抜粋・再編集しています。

育児・介護休業法における育児支援

子どもが生まれた後、小学校へ入学するまでは特に子どもに手がかかる時期だと一般的にいわれています。

育児・介護休業法では、従業員が申出や請求をしたときに仕事と育児の両立ができるような制度の整備を会社の義務としています。ここでは、制度の概要をまとめるにとどめますので、実際の制度の運用にかかる取扱いや育児・介護休業規程の整備ポイントについて詳しくお知りになりたい方は、『新版 総務担当者のための産休・育休の実務がわかる本で逐条解説を行っていますので、あわせてお読みください。

♦出生時育児休業(2022年10月1日施行)

男性の育児休業取得を促進するため、2022年10月に出生時育児休業(産後パパ育休)という新たな育児休業制度が始まります。

この休業は、子どもの出生後8週間以内に4週間まで取得することができるものであり、原則、取得の2週間前までの申出により取得ができること(通常の育児休業は1か月前までの申出が必要)や、2回に分割して取得できること、さらには労使協定を締結した場合、会社と従業員が個別合意をし、事前に調整したうえで出生時育児休業の期間中に就業することができるという特徴があります。

♦育児休業

長期的な雇用契約のなかでは様々なライフイベントが起こります。子どもの誕生は、従業員にとって特に大きなものであり、誕生後は生活環境が変わることが一般的です。1歳に満たない子どもを養育する従業員は、子どもを養育するための育児休業が取得できます。

そのほか、両親がともに育児休業を取得する場合、子どもが1歳2か月に達するまでに育児休業を取ることのできる期間が延長されるパパ・ママ育休プラスの制度があります。

♦育児休業の延長

子どもが1歳になると、育児休業は終了し職場復帰をすることになりますが、子どもが1歳になるときに保育所に入所できない等の事情があるときは、子どもが1歳6か月になるまで育児休業を延長することができます。

♦育児休業の再延長

1歳6か月になるまで育児休業を延長した後、子どもが1歳6か月となるときに保育所に入所できない等の事情があるときは、子どもが2歳になるまで、さらに育児休業を延長することができます。

♦子の看護休暇

小学校入学前までの子どもを養育する従業員が、病気やケガをした子どもの看病をしたり、子どもに予防接種や健康診断を受けさせるときに、1年に5日(対象になる子どもが複数いるときは10日)まで子の看護休暇が取得できます。

なお、子の看護休暇は1日単位での取得のほか、時間単位でも取得できることとなっています。

♦所定外労働の制限

働きながら育児の時間が確保できるように、3歳になるまでの子どもを養育する従業員が希望(請求)したときは、会社は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて働かせることができません。

この制度は、法定労働時間ではなく、従業員ごとに決まっている所定労働時間を超えて働かせることができない点に留意する必要があります。

♦時間外労働の制限

働きながら育児の時間が確保できるように、小学校入学前の子どもを養育する従業員が希望(請求)したときは、会社は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、1か月24時間、 1年150時間の制限時間を超えて時間外労働(法定外労働)をさせることができません。先に挙げた「所定外労働の制限」とは異なり、ここでは法定労働時間を基準に判断します。

♦深夜業の制限

深夜に子どもを保育するために、小学校入学前までの子どもを養育する従業員が希望(請求)したときは、会社は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、22時から翌日5時までの深夜に働かせることができません。

♦所定労働時間の短縮等の措置(育児短時間勤務)

3歳になるまでの子どもを養育する従業員は、会社に申出をすることで、育児の時間が確保できるように 1日の所定労働時間を原則6時間とすることができます。

法令上は、3歳未満の子どもを養育する従業員が対象ですが、共働き世帯の増加や祖父母(従業員の両親)の子育てにかかる支援を受けられない従業員の増加などにより、「小学校入学前まで」等、制度を利用できる期間の延長をする会社もあります。

*   *   *

育児をする従業員が活躍できるかどうかは、制度の整備のほか、職場からの適切な支援が欠かせません。法改正に対応するのみでなく、産休・育休等の制度が社内でしっかりと理解・運用され、労使双方にとって望ましい結果を生み出すことが、これからの会社の発展につながると感じています。


著者プロフィール:宮武 貴美(みやたけ たかみ)

社会保険労務士法人 名南経営/特定社会保険労務士/産業カウンセラー
中小企業から東証一部上場企業まで幅広い顧客を担当し、実務に即した人事労務管理の様々なアドバイスを行う。インターネット上の情報サイト「労務ドットコム」の管理者であり、人事労務分野での最新情報の収集・発信は日本屈指のレベル。企業担当者・社労士には多くのファンがいる。また、各地でセミナーの講師も担当。
著書に、『社会保険・給与計算 “困った”に備える見直し・確認の具体例20』『社会保険・給与計算 ミスしたときの対処法と防止策30』(以上、労務行政)、『総務担当者のための産休・育休の実務がわかる本』『社会保険の手続きがサクサクできる本』(以上、日本実業出版社)などがある。 
【労務ドットコム】 https://roumu.com/