一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第47回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、表現と情報に深みを出す「多視点で書くこと」について。
「単視点」の文章は平面で深みがない
深みのある文章や、説得力のある文章を書きたいなら、物事のある一面だけを見ていてはいけません。たとえば、「お金持ちは幸せである」と思い込んでいる人(決めつけている人)は、お金以外のモノサシで幸せを測ろうとしない人です。文章を書く際、一つのモノサシだけ(単視点)で書いていくと、ものすごく平面的で底の浅い内容になりかねません。
辛口を売りにしているコラムニストや批評家などの中には、あえて単視点で書いてメッセージを尖らせる人もいます。しかし、それはある種の“芸”のようなもの。無自覚な、あるいは、まったく他の視点が見えていない(見ようとしない)単視点とは意味が違います。書き手都合の単視点で書かれた文章は、ときに「イタい文章」「ステレオタイプな文章」の烙印を押されてしまうこともあります。
たとえば、「死後の世界」といテーマで文章を書くとしましょう。 この際、「人間の意識はすべて脳で作られており、脳機能が停止すると意識も消える。それ以上でもそれ以下でもない」と主張する脳科学者の主張を引用すれば、「死後の世界は存在しない」という論調の文章を書くことができるでしょう。
一方、「わたしは死後世界を見てきた」と証言する臨死体験者に話を聞けば、「死後の世界はある」という文章を書くこともできるでしょう。どちらも情報収集を限定した単視点です。情報収集の範囲が限定されると、その範囲を超えて論を展開することはできません。
では、脳科学者と臨死体験者、両者の情報を用いたとしたらどうでしょう。ほかにも、医師、哲学者、宗教家、学者、シャーマン、ヒプノセラピスト(催眠療法士)などから話を聞く。あるいは、「死後の世界」をテーマとする関連書籍を読み漁り、さらに視点を増やしたとしたらどうでしょう。おそらく「思い込み(決めつけ)」によらず、客観的に考察・比較・分析することができるはずです。その結果、「死後の世界」について、多角的に検証した、読み応えのある文章を書き上げることができるのです
さまざまなアプローチで情報収集し、多角的な視点で捉えることは、深みと説得力を備えた文章を書くうえで極めて重要なポイントです。
「多視点」こそが文章力アップのカギ!
「視点」について、もう少し別の角度から説明しましょう。たとえば、Aさんという人物について説明するときには、以下のような視点で語ることができます。
- Aさんの容姿
- Aさんの仕事・仕事ぶり
- Aさんの性格
- Aさんの社会的評価
ほかにも、「好きなこと・嫌いなこと」「得意・不得意」「夢や目標」「学歴・経歴」「恋愛観や結婚観」「人望・信頼性」などの視点で語りたいという人もいるかもしれません。
この文章は、容姿の視点のみで書いた文章です。容姿についての情報(単視点)だけは、読む人が、Bさんのことを深く理解することはできません。あまりにも情報量が少なすぎるからです。
【文章2】
Bさんは決してイケメンではない。しかし、ヘアカットの技術が群を抜いているうえ、優しくホスピタリティも抜群。カリスマ美容師への階段を着実にのぼっている。
この文章には、容姿以外にも、仕事・仕事ぶり、性格や社会的評価などの視点が盛り込まれています。Bさんに関する情報量としては、文章1とは比較にならないくらい“豊か”と言えるでしょう。より深くBさんのことが理解できるのも文章2のほうでしょう。
このように複数の視点を盛り込むことによって物事の見え方が変化し、文章に広がりと奥行きが生まれます。単視点による底の浅い文章から抜け出すためには、幅広く情報を収集したうえで、それらの情報を多角的に観察・比較・分析するクセをつけましょう。多角的な視点を経て導き出した結論は、単視点で導き出したそれとはまったく別ものです。