ビジネスの現場で用いられるフレームワークは「並列化」や「階層化」など、5つの思考パターンに大別することができます。その用途も意思決定や問題解決に限らず、目的に合わせた多種多様なものが存在します。ここでは「時系列化思考(要素を時間の流れで分解して考える)」に従い、企業組織の発展や変革の分析に使えるフレームワークを紹介します。

※本記事は『武器としての戦略フレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです。

企業組織の発展モデル

企業組織の発展段階を分析するためのフレームワークとしては、経営学者のラリー・E・グレイナーが提唱した「5段階企業成長モデル」が有名です。このモデルでは、左上に図示したように、企業の誕生から5つの段階で成長していく姿がフレームワーク化されています。

それぞれの段階での成長スタイルがあること、そして、その成長スタイルが高じると危機が訪れることを定式化しました。以下、各段階を簡単に説明しておきます。

第1段階

まさしく起業の時期です。創業者が自分一人のリーダーシップで組織を引っ張っていく段階です。0→1を実現するには、創業者は開発から営業、管理まで何から何まで自分でやることが必要です。

しかし、一定のキャパシティを超えると、創業者自らが一人で回すことに限界が来ます。これが「リーダーシップの危機」と呼ばれる時期です。自分一人でやることにこだわると、創業者自身がボトルネックとなって個人商店となり、成長が止まります。

第2段階

リーダーシップの危機を乗り越えるには、社員に仕事を割り振るということが必要です。トップが社員に指示・命令をすることによって仕事をさせて成長する段階に入ります。社員はトップの手足として意のままに動くことが、最も効率的である状態です。

しかし、この段階もいつかは頭打ちになります。社員が指示待ち人間ばかりになり、トップが指示・命令できる範囲で成長が止まります。これが「自主性の危機」です。

第3段階

自主性の危機を乗り越えるには、権限委譲が必要となります。マネジャー層に権限委譲し、それぞれが自分で考えて動くようになってもらうことで、新たな成長軌道に乗ることができます。

しかし、それが進んで遠心力が働き出すと、今度は独走を始めるマネジャー層が出てきます。各部門がバラバラになり、部門間連携ができなくなります。これが「コントロールの危機」です。こうした各部門の個別の動きが会社全体の全体最適を妨げるため、これがまた成長の壁となります。

第4段階

これを解消するのが、本社サイドによる調整です。管理本部や経営企画部のような統制部門が全社最適の立場でコントロールを行なうことになります。具体的には、規程類や稟議制度・業績評価制度などの各種制度を整備し、ルールによる企業運営を進めることによって企業統治を実現することになります。

しかし、これが進みすぎると、いわゆる「大企業病」となります。手続きが煩雑化して硬直化し、官僚主義的になります。これが「形式主義の危機」です。

第5段階

これを乗り越えるのが、協働による成長です。社員一人ひとりが自律性を持って仕事に取り組み、主体的に協働しながら成長している段階です。昨今は、「ティール組織」や「ホラクラシー組織」といった自律分散型組織が注目されていますが、グレイナーはそれを先取りしていたわけです。彼が最初に5段階企業成長モデルを提唱したのは1970年代ですから、実に先見の明があったと言えるでしょう。

さて、みなさんにとって、ご自分の所属している組織はいかがでしょうか。「そう、そう」とうなずきたくなる段階が、どこかにあったのではないでしょうか。みなさんの会社も、どこかの段階に必ず当てはまるはずです。

グレイナーの提唱から半世紀が経ったいまでも、組織の成長を分析するフレームワークとして納得できる普遍性を有するフレームワークだと言えるでしょう。

組織変革のためのモデル

最後に組織変革のためのモデルについても紹介しましょう。組織変革にも時系列的なプロセスがあり、その流れで実行すべきだということです。ハーバード・ビジネススクール教授でコンサルタントでもあるジョン・P・コッターは、企業変革プロセスとして、以下の表に示したように8段階があると提唱しています。

危機意識を醸成して、ビジョンを提示し、従業員を動かすというのは、企業変革の常套手段で、特に目新しいものではありませんし、ここまでならどの会社でもやることです。

ここで意外と重要なのが、第6段階の「短期的な成果を実現する」というところです。「ビジョンを提示してやるぞ!」というところまではやるのですが、具体的な成果が見えてこないと、盛り上がった改革意識が冷めてしまい、社内の抵抗勢力が息を吹き返し、改革が頓挫するという末路をたどります。

そこで大切なのが、小さいことでもいいので、具体的な成果を出すということです。そうすれば、「動けば変わる」ということを社内にアピールすることができます。これが、第7段階にあるように、変革を加速させるドライブとなります。

したがって、短期間で実現できそうな施策を意図的に当初の戦略に盛り込んでおくということも、テクニカルな組織変革の成功術としてはとても重要なのです。


手塚貞治(てづか・さだはる)

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 プリンシパル。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。NTTを経て現職。専門は成長企業に対する経営戦略、事業計画策定、IPO支援、IR支援、ワークショップ支援など。著書に『戦略フレームワークの思考法』『「フォロワー」のための競争戦略』『「事業計画書」作成講座』(以上、日本実業出版社)、『経営者のためのIPOを考えたら読む本』(すばる舎)などがある。