食品衛生法の改正に伴い、2021年6月より食品を扱う全事業者に対し、国際的な衛生管理手法である「HACCP」の導入・運用対応が完全義務づけられました。HACCP対応の特徴として「記録」がよく言われていますが、本質はそれだけではありません。ここでは『図解 飲食店の衛生管理』(河岸宏和著)のなかから、3項目をピックアップしてみてみましょう。

HACCP対応=「食中毒」を起こさない

各作業のハードルの高さを説明できるか

HACCP対応を鶏肉の唐揚げで考えてみます。使用する鶏肉はどんなものを仕入れるか、仕入れ先と大きさ、値段などを取り決めた「原料規格書」で約束します。この約束が、いわば陸上競技におけるハードルになります。細菌が飛び越えたら競技終了です。また、ハードルが低すぎて誰もが飛び越えられても競技として成立しません。競技者=細菌、安全基準=ハードルと考え、細菌が飛び越えてしまわないように、決められた高さがあることを毎日記録することが大切なのです。

鶏肉の保管温度が5℃以下と約束したら、入荷時に6℃では返品しなければなりません。まして、仕入れ先とお店が近くだからといって、5℃以下で管理すべき鶏肉を常温管理のライトバンで運んできてはならないのです。

ルールを守っていた記録があるか

唐揚げの調理のルールは、175℃、5分とします。面倒でも、油の温度が175℃あるか温度表示を確認し、タイマーを使用してきちんと5分測ります。

HACCPは記録をつけることが目的ではありません。入荷時の温度が5℃と決められていれば、6℃のときに返品したと、異常時に正しく処置したと記録することが大切なのです。フライヤーの温度が160℃と表示されていれば記録して調理を続けるのではなく、175℃に上がるのを待って調理を開始することが大切です。温度が上昇しないなら、フライヤーが故障していたと記録します。

温かいまま盛りつけた料理を宅配に依頼する場合も、何時間後まで安全においしく食べられるか科学的に判断し、事前に設定しておくことが必要です。

アレルギー対応の基本

厨房内のアレルゲンを確認する

アレルゲンは、表示義務のある特定原材料7品目と、表示義務のない21品目があります。トマト、しいたけ、米などに反応する方もいるので、使用している食材は、いつでもお客さまの質問に答えられることが必要です。

お店の入口には、「アレルゲンに対する当店の考え方」を明確に掲示します。牛乳と豆乳を使用していれば、豆乳メニューに絶対に牛乳が混じらないことはありません。「豆乳メニューは提供できますが、必ずしも牛乳が排除できるわけではありません」「最終的に飲食されるかお客さまで判断してください」などと明確な表現で掲示すべきです。

また、敏感な方だと、牛乳をついだコップを水洗いして水を提供したとしても、牛乳に対するアレルギー反応が出る場合があるので、注意が必要です。

つねに再点検を行なう

メニューには使用しているアレルゲンを特定原材料の7品目だけでなく、28品目すべて記載することが、お客さまへの透明性をもった情報公開のあり方だと思います。

一般的には、牛乳を使用している商品を「豆乳」に変更した場合などは、商品自体に「豆乳」のシールを貼る、豆乳専用のカップにするなど、調理する人、お客さま双方の間違いを防ぐ工夫が必要です。

新メニューの切り替え時、食材の入れ替え時は、食材メーカーから原料規格書を取り寄せ、アレルゲンの確認が必要です。豚肉のベーコンのメーカーを変えたところ、いままで含まれていなかった「乳」が含まれていた事例もあります。たとえば、そばとうどんを同じ釜でゆでている場合、うどんにそばが入る可能性があります。

こういった場合は、店頭、メニューの両方に明記すべきです。

生野菜は温めても大丈夫?

洗っても野菜の菌数はゼロにはならない

レタスなどの葉物野菜は葉の表面を中性洗剤で洗い、きれいにすすいでも、細菌数はゼロにはなりません。 野菜だけなら、10℃以下で保存することで洗ってから1日程度は変色もせずにおいしく食べることができます。一方、ゆでた鶏肉だけを10℃に保管すれば1日以上おいしく食べられます。

しかし、レタスを敷いて、温かい鶏肉を載せて、室温で4時間置いてしまうと鶏肉から異臭を感じるかもしれません。 コンビニ弁当のように、容器自体がパスタの場所、チキンの場所、野菜の場所と分かれて、食材同士が触れなければいいのですが、カップサラダのようにすべてが触れ合ってしまうと、野菜からの汚染が広がってしまいます

タンパク質は、冷やしているか

野菜は、洗うときに水の温度まで冷やされます。鶏肉、パスタなどが、野菜と同じように10℃程度に冷えていればいいのですが、ゆでたての鶏肉を野菜の上に置いてしまうと、菌の増殖のスピードは上がってしまいます。特に夏にかけて、生野菜をお弁当に入れるのは、非常識です。同じように、オードブルで、レタスの上にローストビーフ、ハムなどを載せ、ソースをかけたものなどは、宅配時間だけで菌数が高くなる可能性があります。

生野菜を使いたければ、チラー水で10℃以下まで冷やしたものを別の容器で運び、食べる直前に盛りつけることが必要です。盛りつけたものはその場で食べて、保管しないようにします。


河岸宏和(かわぎし・ひろかず)

食品安全教育研究所代表。1958年北海道生まれ。帯広畜産大学を卒業後、農場から食卓までの品質管理を実践中。これまでに経験した品質管理業務は養鶏場、食肉処理場、ハム・ソーセージ工場、餃子・シュウマイ工場、コンビニエンスストア向け惣菜工場、玉子加工品製造工場、配送流通センター、スーパーマーケットなど多数。世界基準の厳しい品質管理の経験をもとに、現在、日本の工場や飲食店に対して衛生管理の方法を指導、啓蒙している。

著書に『最新版 ビジュアル図解 食品工場のしくみ』 『ビジュアル図解 食品工場の品質管理』(‎同文舘出版)、『“食の安全”はどこまで信用できるのか―現場から見た品質管理の真実』(アスキー)等。