働き方が多様化しているように、「営業スタイル」も人それぞれ。営業を生業とする人が皆、それを得意としているわけではなく、多くは「短所」も「苦手」も抱えているもの。ならば、成果を出す人はどこが違うのか。リクルート黄金期を支えた営業経験をもとに人気オンライン講座「営業サプリ」の総合監修を務める大塚寿氏が、あなたの営業力がいますぐアップする処方箋を提示する。
※本稿は『<営業サプリ式>大塚寿の「売れる営業力」養成講座』(大塚寿・著)を再編集しています。
目指すのは成果につながる“賢い”営業
この四半世紀、「これまでの御用聞き営業ではダメだから、提案営業への転換を目指す」という話を散々聞いてきました。
しかし、その転換に成功した企業というのはまったく耳にしたことがなく、その流れで最も成功したのは、「御用聞き営業から“賢い”御用聞き営業」への転換だったりするのです。実は、この“賢い”の中味が、私には「提案営業」の本質だったように思えました。
営業パーソンに「御用聞き営業じゃダメだから、提案営業をやれ」とやみくもにいっても、当の営業パーソンは「何をやるのか」「これまでと何を変えればいいのか」がまったくわからないのです。
一方、「“賢い”御用聞き営業」は、これまでやってきた「御用聞き営業」の延長ですから、これまでを否定するのではなく、これまでの延長にプラスして「お客様のお困りごとや課題を3つ聞いてこよう」だけの指示で顧客の情報を集め、その最大公約数に応える施策を展開し、業績を伸ばしました。
何がいいたいかというと、「御用聞き営業=時代遅れ」「提案営業、ソリューション営業=正しい姿」というステレオタイプな発想をしていては成果は出ないということです。
そもそも営業スタイルには、「御用聞き営業」「提案営業」「ソリューション営業」のほかにも様々なものがあります。“売れる営業”になるためには、それら複数の方法を目的に応じて使い分けられるようになることが必要です。
なぜなら、どのスタイルが望ましいかは、顧客やその窓口のニーズによって異なるからです。決めるのはあくまで顧客の側なので、そこに合わせられるのが“賢い”営業というわけです。
「営業スタイル」にはどんなものがある?
では実際、営業にはどんなスタイルがあるのでしょうか。まず整理しておきましょう。
→1:説明系
商談の8割前後を営業する側が話している営業。製品をわかりやすく説明しようとしたり、顧客の興味関心を引き出そうとして、いろいろ話すうちに、ついつい自分ばかりが話す営業になってしまいます。1年目、2年目だけでなく、営業パーソンの中では最も多いタイプになります。しかしながら、顧客がその製品やサービスについて知りたいという場合には、成果も出ます。
→2:聞き上手系(寄り添う系)
商談の半分以上を顧客の側が話している営業。厳密には、営業が相手が話しやすい質問をしたり、現状の課題を相談したくなるような情報提供の前振りをしたり、導入事例などを共有し、営業を展開しています。
→3:連絡係系
顧客のニーズや期待を正確に、額面通りに自社の技術部門やクリエイティブ部門といった関連部門に伝え、両者の意向を調整しながら、うまく案件をハンドリングしていく営業。フットワークの良さ、先を読む力、周りを動かすことが求められます。
→4:御用聞き系
既存の取引先に営業するアカウント営業に多いスタイルで、「何かありませんか?」という注文取りが源流。ここのところ「御用聞き営業」が否定される向きがありますが、新規開拓営業出身者からすると、訪問することを許されている顧客があること自体、身内として扱われること自体が羨望に値します。その「強み」に気づいたうえでの営業の進化が望まれます。
→5:提案系(コンサル系)
そもそも広告代理店、プランニング会社、制作会社、コンサルティング会社といった業種のコア商材自体が「提案」なので、当然、営業もそうしたスタイルになります。また、それ以外の業種でも、顧客のお困りごとや課題の問題解決策を提案する場合は提案系の営業スタイルとなっています。その一方で、「提案営業」といいながら、顧客にとっては自社の問題解決にはつながらない、単なる「製品の提案」を一方的に「提案営業」と呼んでいる「なんちゃって提案営業」も多いので、ここは区別しておきたいところです。
→6:共創系
これは、前の「提案系」が一段階進化したかたちですが、特にIT業界を中心に広まっています。その背景にあるのは、すべての製品、サービスが行き渡ったなかでの、DX(デジタルトランスフォーメーション)、AI(人工知能)といった新しい概念の登場です。技術の進歩が速く、企業としても何を提案して欲しいかがわからなくなり、ならば、一緒にビジネスやサービスを創り出しましょう、ということで始まった流れになります。ここで求められるのは、斬新な発想、「切り口」を生み出す想像力といったコンセプチャル系スキルになります。逆にいえば、そうしたアイデアで勝負したい営業パーソンには“打ってつけ”といえるでしょう。
→7:技術知識系
IT業界や製造業には、技術者出身の営業パーソンが少なくありませんが、顧客からすると技術知識に富む営業は心強いですし、図面が書けたり、簡単な設計変更を営業が対応できたりすると顧客からも社内でも重宝がられる存在となり得ます。これからも、どんどん増えていって欲しいと思います。
→8:受動系(受け身系)
顧客からの見積依頼、提案依頼(RFP=Request for Proposal)からスタートする営業。メーカー、ゼネコン、サブコン、設備系、IT業界などに多く、営業の仕事が、その見積対応という企業さえあります。
→9:能動系
受動系の真逆で、自ら仕掛けて、見込み客をターゲティングし、アプローチし、案件化させて、刈り取る能動系の営業になります。昭和、平成初期の日本の成長期に全盛を誇りましたが、現在でも新規開拓営業ではこのスタイルが主流となっています。
→10:キャラ系(なぜか顧客に愛される)
技術知識に優れるとか、モチベーションや意識が高いということはないのに、なぜか顧客に愛される、好かれる営業パーソンが存在しています。人間的に「おもしろい」場合が多いのですが、お客様から「ちゃん付け」で呼ばれたり、あだ名で呼ばれたりするこのキャラ系は強力な武器で、競合企業からすると、非常にイヤな存在となります。
自分の得意、不得意を知る
ここでは、代表的な10種類のスタイルを紹介しましたが、あなたの営業はどのスタイルになりますか?
自分がどのスタイルなのかを知ることが“売れる営業”への第一歩ですが、あなたの営業力をアップさせるには、ほかにどんなスタイルがあるのかを知り、顧客側のニーズに合わせて、複数のスタイルを柔軟に使い分けられるようになることも必要です。
あなたが担当する業界、企業にふさわしいスタイルをチョイスして、その営業手法もある程度は操れるようになりましょう。もちろん、「技術知識系」「キャラ系」については自分ではコントロールできないので、除外してかまいません。営業の一連の流れや活動の中で、ぜひ、あなたの得意なところと不得意なところを、さらに明確にして欲しいと思います。
あえて「さらに」としたのは、営業経験が1年以上あれば、あなたはザックリとは得手、不得手を認識しているに違いないからです。あるいは、上司や先輩から、はたまたトラブルや顧客からのクレームにより、それらを思い知らされた経験があるのではないでしょうか。
そこで、「ザックリ」から一歩進めて、得意なところは、なぜ得意だったのか、逆に不得意だったところは、なぜ不得意だったのか。どういう「方法」を選択すれば、首尾よく前に進むのか……。こうした振り返りで得た気づきを1つずつ実践しながら、自分流にカスタマイズしていくことで、営業力は自ずと身についてきます。
焦ることはありません。正直、あなたの短所も苦手も関係なく、営業の場合は結果を出せれば何ら問題にはなりません。重要なのは、その顧客にとって最適な「方法」は何か、を考えることです。いますぐ、できることから始めていきましょう。