一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第40回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、話の「前提」を共有する重要さについて。
仕事で一番最初にすべきは「前提の共有」!
メールを含むビジネス文章でたびたび起る誤解。その原因のひとつが「前提」の省略です。仕事をするうえで物事の前提を共有しておくことは重要です。
たとえば、人材育成をする際に「即戦力を育てる」のと「長期的な戦力を育てる」のとでは、作成するカリキュラムは大きく変化するはずです。そういった前提が、先々の判断や行動を決めるのです。
仕事で文章を書くときに前提の認識がズレると、成果達成しにくくなるほか、思わぬミスやトラブルを引き起こしかねません。コミュニケーションにおいて前提の共有は必須なのです。
以下は、仕事のプロジェクトを進める前に共有するべきおもな前提です。
- このプロジェクトの目的・目標は?
- このプロジェクトのルールや手順は?
- このプロジェクトの予算・期限は?
こういった前提を省いてしまう原因としては“思い込み”があります。つまり「そんなこと(前提)、わざわざ言わなくてもわかっているだろう」と、書き手が勝手に判断してしまうのです。これでは誤解を招くリスクが高まるのも当然です。
前提が変われば、仕事の成否も変わる!?
文章を書くときには、そのつど、文章を読む人の前提認識レベルを見極める必要があります。少しでも「相手は前提を認識していないかも?」と感じたら、必要な説明を省いてはいけません。
【原文】
ご報告します。今回のネット販売会ですが、昨年よりアクセス数も多く、2日間で1,500個を販売しました
【修正文】
ご報告します。今回のネット販売会ですが、昨年よりアクセス数も多く、2日間で1,500名を販売しました。一方で、全販売数の割7が商品Bで、主力の商品Aは3割(450個)にとどまりました。目標に掲げていた「商品Aの700個販売」は達成できませんでした。
このネット販売会の最大の目的は「商品Aの700個販売」でした。原文では、この重要な前提に触れていません。書いた本人が前提を理解していないのか、あるいは、前提を書き忘れたのか。どちらなのかはわかりませんが、いずれにしても、これでは相手に「今回のネット販売会=成功した」と誤解を与えかねません。
一方の修正文は、前提を正しく理解しており、アクセス数と購入者数は多かったものの「成功とは言い難い」ことがわかります。当初の目標(前提)を示すことで、読む人が誤解する余地をなくしています。
前提をしっかり書くことは、前提を忘れてしまっている恐れのある人にとっても大きな“助け舟”にもなるのです。
提案・企画では「背景説明」が重要
「前提」と似た言葉に「背景」があります。前提同様、背景を省略してしまうと誤解を招く恐れがあります。とくに提案や企画を伝えるときには背景説明は必須です。
以下は、社員Aさんによる社内への提案です。
【提案】
社内に、社員全員が気軽に使える仮眠室を設置してはいかがでしょうか?
提案内容は明快ですが「どうしてそれをする必要があるのか?」についての記述がありません。この提案に至った背景が書かれていない状態です。以下の文章を添えることで提案内容の説得力が高まります。
【提案の背景】
昼食後に眠気に襲われている社員は少なくありません。眠気のある状態で作業をすれば効率と生産性が低下します。現に、先月起きたふたつの事故も昼食後の時間帯で、該当社員からは「眠くて集中力が低下していた」というコメントが出ています。また、仮眠が脳の効率を高めることは、さまざまな研究結果で明らかです。カリフォルニア大学の研究によると〜
このような背景がわかれば、提案内容の意義をより強く感じることができるでしょう。もっと言えば、こうした背景こそが、実は提案や企画の採否を左右する重要な要素なのです。
前提と同様に「わざわざ言わなくてもわかっているだろう」という“思い込み”は禁物です。背景を説明しなければ、提案や企画の必要性を理解してもらうことは至難の業でしょう。
あなたが書こうとしているその文章に、必要な前提や背景説明は盛り込まれていますか? 前提や背景を伝えることで、やり取りにムダやロスがなくなり、仕事の効率と生産性も高まっていくはずです。