一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第36回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、気づかないうちに書いている支離滅裂な文章について。
支離滅裂な文章の原因は多種多様
「言葉足らず」なうえに「文法」や「表現」も正確性に欠けている文章を書く人がいます。非論理的で文脈がつかみにくく、支離滅裂な文章は“悪文”と言えます。こういう文章に遭遇した時、読み手は脳をフル回転させなければいけません。しかし、頭をフル回転させたからといって理解できるとも限りません。
【例文】
言葉にはしませんが、相当に深い悩みなのに、社会の排斥的なシールドに包まれて、ネガティブである、自分を責めてしまうのです。自分とはほど遠いとされる一般的な「ポジティブ思考偏重」に対するイメージをくつがえす異色の、イベントに、このシンポジウムはなるでしょう。陰陽を統合しましょう。
この文章を正確に(書き手の意図通り)読解できる人はいないでしょう。文法が破綻していて、言葉や表現の選び方も適切とは言えません。何の意図もなく打たれた読点(テン)も混乱を招く一因です。
書き手の頭の中では筋がとおっているのかもしれませんが、その筋を読む人に伝えきれていません。むしろ、読む人を混乱させてしまっています。ここまでひどい文章を書く人はめったにいませんが、これに近い文章を書いている人は思いのほか多いです。
【支離滅裂になっている原因】
- 主語の抜け落ち(誰の話かわからない)
- テーマが見えない(何の話をしているのかわからない)
- 「社会の排斥的なシールド」とは?(言葉が意味不明)
- 「自分とはほど遠いとされる一般的な『ポジティブ思考偏重』」とは?(言葉が意味不明)
- 「陰陽」って何のこと?(唐突かつ意味不明)
- 読点(テン)を打ちすぎ(リズムが悪く読みにくい)
- 文脈(文と文のつながり)のスムーズさがない
多くの場合、支離滅裂な文章の原因はひとつではありません。さまざまなダメポイントが積み重なった“合せ技”によって起きているのです。
読み手に余計な頭を使わせない、親切な書き手になろう!
先ほどの例文を修正してみます。
【修正文】
言葉にこそしませんが、多くの人が「自分はネガティブである」と思い込んでいます。不安や悪い妄想、嫌な記憶など、ネガティブなことばかり考えてしまうことに悩んでいる人もいます。
ところが、世間では「ポジティブ思考をしよう」という意識高めな基準が存在します。それによって、ネガティブであること自体が“良くない”とする風潮が生まれました。「ネガティブ思考」に陥りやすい自分を責めて“罪悪感”を抱いてしまう人も少なくありません。
本シンポジウムは、おそらく、従来の「ネガティブ思考」に対する悪いイメージを根底から覆すイベントになるでしょう。
ネガティブ思考は「陰」であり、ポジティブ思考は「陽」です。「陰陽」はそもそも一体であり、そこに良し悪しはありません。どちらも人間が生きていくうえで大切にしなければいけないものです。
本イベントが、相互補完関係にある陰陽(ネガティブ思考とポジティブ思考)それぞれの価値を実感する機会となれば幸いです。
「論理性」と「わかりやすさ」を意識して支離滅裂な原文を修正しました。心がけたポイントは以下です。
【論理の明確化】
- 一文を短めにした。
- 主語、述語、目的語などを明確にした。
- 論理を整えて筋を明確にした。
【意味の明快さ】
- 意味不明な言葉を、わかりやすい言葉に変更した。
- 抽象的な言葉(あいまいな言葉)を、具体的な言葉に変更した。
- 「言葉足らず」を補う説明を入れた。
【読みやすさ】
- 不要な読点(テン)を削除した。
- 文脈(全体の流れ)を整えた。
- 空白の行を入れた。
ことビジネスシーンで支離滅裂な文章を書けば、書き手自身の信用低下を招くこともあります。また、誤解に端を発し、人間関係やビジネスに実害が生じる恐れもあります。
支離滅裂な文章を書く人は不親切な人です。なぜなら、読み手に余計な頭を使わせているからです。書き手の頭が整理されていない責任を、読み手になすりつけているようなものです。
あなたの文章は支離滅裂になっていませんか? 身に覚えがある方や、他人から「意味がわからない」と言われがちの方は、上記のポイントを念頭に置きつつ文章作成しましょう。