金融緩和により、各国の株式市場は未曽有の高騰を続けている。そのなかでも群を抜いた上昇を続けているのが米国株市場だ。なぜ、米国株は他国の市場と比べて一際騰がっているのか。暴落のリスクや死角はないのか。
そうした分析を、日経ヴェリタス「ストラテジストランキング」で2017~2020年の4期連続1位であり、みずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジストを務める菊地正俊氏の著書から見てみよう。※本記事は『No.1ストラテジストが教える 米国株投資の儲け方と発想法』の一部を抜粋・編集のうえ掲載したものです
企業業績の良さに伴う「世界中からの買い注文の集中」が高騰の背景
株価は短期的にはイベントや需給などでも動きますが、中長期的には景気や企業業績などの経済ファンダメンタルズを反映します。1999年末~2019年末の20年間にS&P500は約2.2倍に上昇しましたが、この間S&P500のEPS(1株当たり利益)は1999年の74ポイントから、2019年に141ポイントと約1.9倍に増えました。S&P500の上昇率と増益率の差はPERの上昇ということになりますが、中長期的に見ると、企業業績と株価指数はパラレルに動いています。
米国株が大手IT企業の業績拡大や、産業構造の転換による将来期待の高まりを背景に、EPSとPERともに拡大したのに対して、日本は旧態依然とした産業構造が中国経済の減速の悪影響を受けたうえ、アベノミクスは後期になると将来期待を高めることができませんでした。
2020年はコロナ禍をきっかけにナスダックのテクノロジー株が大きく上昇した年でしたが、こうした集中物色は過去に何度か起きています。
- 低金利や過剰流動性
- 技術革新への期待
- 個人投資家などによる株式需給の偏り
などが、集中物色の背景になることが多々あります。
バブルをつくり出すのは、いつも技術革新への期待に加えて、大規模な金融緩和です。
近年、急騰する米国株を買っている投資主体は外国人、企業の自社株買い、ETFでしたが、自社株買いはコロナ禍による業績悪化で急減する一方、外国人からの米国株投資が増えました。このなかには当然、日本の個人投資家による投信経由の買いも含まれます。
1989年の日本の資産バブルのピークに、日本の株式時価総額はMSCI世界株価指数(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル社が算出している株価指数)の約4割を占めていましたが、いまや約7%に低下する一方、米国株の比重は約6割へ高まりました。
日本の個人投資家は日本株から、米国株投信や外国株投信へシフトしています。2020年10月末の純資産は日本株アクティブ投信が前年同月比4兆円減の43兆円になった一方、米国株投信は同約3兆円増の11兆円となりました。
日本の個人投資家が日本株投信を利食う一方、米国株投信や外国株投信への投資を増やしていることも、日米株の相対パフォーマンス格差に寄与しているといえます。
イベントをきっかけに急落することも
米国株は10年に1回程度急落することがあるものの、基調的に右肩上がりなので、「バイ&ホールド」の長期投資が有効です。しかし、2020年3月中旬からの株価上昇が急だったため、何らかのイベントをきっかけに急落することもあるでしょう(ただ、3月の安値で買えなかった投資家には次の大きな押し目を待っている人もいます)。
米国のコンサルティング会社のユーラシア・グループが年初に発表するその年の「10大リスク」は、世界的に注目されますが、現在、米国株について思いつく主なネガティブ・リスクファクターとしては、次の3点が挙げられます。
1つ目のリスクは、コロナウイルスが収束するどころか、再拡大して、世界経済が再びロックダウンされることです。コロナウイルスが変異して、開発されたワクチンの有効性が低下する可能性があるでしょう。
1918~1920年のスペイン風邪も、第2波の死者が多かったのは有名な話です。世界各国の政府は2020年春先に大規模な財政支出を行ないましたが、次にコロナウイルスが流行して、経済が大きく落ち込んでも、財政のない袖は振れないという状況に陥るリスクがあるでしょう。
長期金利の上昇、米中軍事衝突などもリスク要因
2つ目のリスクは、米国の長期金利の上昇です。現在のテクノロジー株を中心とする強気相場を支えているのは、米国の短期金利はゼロ、10年国債利回りは1%以下という超低金利です。大型成長株は割引キャッシュフローモデルでフェアバリュー(適正価格)が計算されるので、資本コストの計算に使われる無リスク金利が少し振れるだけで、フェアバリューが大きく違ってきます。
米国の長期金利が上がれば、米国債を買いたい日本の機関投資家も多いでしょうが、バイデン政権の財政拡大が予想を上回るものとなり、インフレ懸念が高まり、米国の財政赤字がこのまま持続できるのかと疑われれば、米国債が暴落(利回りは上昇)する恐れがあるでしょう。
3つ目のリスクとして、米中が覇権争いから、経済対立の深刻化のみならず、アジア太平洋で軍事衝突が起きる可能性も否定できません。
中国の現在の政治体制や文化が世界的に受け入れられるとは思えませんが、覇権国交代時期には往々にして戦争が起きるという歴史的事実があります。米中戦争にならなくても、米中の経済対立が実体経済の落ち込みを深刻化させる可能性はあるでしょう。
中国政府は米国のファーウェイ制裁に対する強力な対抗措置を打ち出していませんが、アップル製品の中国での販売禁止や中国での製造禁止などの措置が考えられなくもありません。もっともこれらの措置は中国経済への打撃になり、国民からの共産党政権に対する不満拡大につながるので、実現の可能性は低いと思います。
逆に、ITバブルの再来、経済活動の正常化で、いままで抑制されていた需要が一気に発現し、世界経済がV字型で回復すること、米中友好関係の構築などポジティブ・リスクファクターについても留意しておくべきでしょう。