一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第34回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、一歩間違えると圧迫感を与える「説得の文章」について。
「強引に押し切る」は大間違い!
「人から説得されるのが好き」という人はあまりいないでしょう。自分の意志ではなく、相手にコントロールされている気分になるからです。逆に言えば、相手を説得したいときほど相手のことを説得しようとしてはいけません。
説得と恋愛は少し似ています。押せば押すほど逃げていく……。不思議とそういうものなのです。相手を説得したいなら強引に説き伏せるのではなく、相手が自然と納得するように、また自発的に決断できるよう、伝える内容と伝え方(表現)を工夫する必要があります。
「売り込み臭」が強い文章は上から目線な印象に
【原文】
先日ご案内させていただいた顧客管理システムの件ですが、
お申込み期限(10月19日)が迫ってきたため、
改めてご連絡差し上げました(次回の募集は未定です)。
このシステムを利用しないのは、貴社にとって機会損失になりかねません。
ご検討のうえ、お申込み願います。
このような営業メールで到達しなければいけないゴールは何でしょう? それは、相手から快く「はい(イエス)」の返事をもらうことです。
原文は、冒頭から「お申込み期限(10月19日)が迫ってきたため」と圧迫感を与えています。「貴社にとって機会損失になりかねません」という文面も上から目線です。
「お申込み願います」という結びの一文も一方的な表現といえるでしょう。粘着質な説得ではないものの、相手の気持ちを無視した文章という印象を受けます。「相手の利益」ではなく「自分たちの利益」のために書いているのが透けて見えてしまいます。
さりげなくメリットを提示させると「読み手本位」の文章に
先ほど紹介した原文は、メールを送る側が書きたいことを書きたいように書いた「書き手本位」の文章です。書き手本位の文章では、人を説得することはできません。読む人を説得したいのであれば、読む人の立場に立って、読む人を満足させる(喜ばせる)文章を書かなければいけません。求められるのは「読み手本位」の文章です。
【原文の修正】
先日ご案内させていただいた顧客管理システムの件でご連絡いたしました。
導入をお勧めしたい気持ちでいっぱいですが、
貴社のご方針もありますので無理は申しません。
お申込み期限(10月19日)が迫ってきたため、
念のため、ご連絡差し上げた次第です。
弊社の計算によりますと本システムを導入いただいた場合、
毎月15〜20万円のコストダウンが見込めます。
また、導入後は、弊社管理下にて24時間体制のサポートを行います。
本件について、ご不明点やご要望などあれば、遠慮なくお申し出ください。
もし必要であれば、改めてご説明にうかがうことも可能です。
本システムが、貴社の利益率アップのお役に立てますと幸いです。
ご検討いただけますよう、どうぞよろしくお願いします。
全編で「上から目線」を排除しました。中でも「貴社のご方針もありますので無理は申しません」の一文には潔さと誠実さが感じられます。さらに、お申込み期限を案内する際に「念のため、ご連絡差し上げた次第です」というフレーズを添えることで“強引な説得はしません”という姿勢を伝えています。
そのうえで「弊社の計算によりますと〜」と相手にとって魅力的なメリット(毎月15〜20万円のコストダウンが実現できる点)を簡潔に伝えています。「貴社にとって機会損失になりかねません」と不安を煽るようなネガティブアプローチではなく、「相手のメリット」をさりげなく伝えることで、サービスに興味を持ってもらいやすくなります。
「ご不明点やご要望などあれば〜」や「もし必要であれば〜」などの結びのフレーズにも押し付けがましさはありません。むしろ、ホスピタリティの高さを感じられます。商品のみならず、この会社(サービス提供者)への信頼も高まります。
営業やセールスの場面だけでなく「提案する」「依頼する」「慰留する」「報告する」など、ビジネスシーンのあらゆる場面で説得することは求められます。
力業で相手を説き伏せることが説得ではありません。肝心なのは、相手の立場に立ち、相手が喜ぶ(満足する)メリットを伝えながら、自然と納得してもらうことです。