一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第30回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、アウトプットに必須なスキル「要約力」ついて。
要約力が磨かれると、伝え上手になる?
「ダラダラ話すな!」「それで、結論は何なんだ?」「話の要点が見えないぞ!」――あなたはこんな指摘を周囲から受けたことはありませんか?
もしかすると、相手に伝わらない原因は「要約力の低さ」にあるかもしれません。
「要約力」とは、情報のポイントをつかみ、場面に応じて、簡潔かつ論理的にアウトプットする能力のことです。要約は以下の3ステップから成り立っています。それぞれのステップに優先順位はありません。
ステップ1:【情報収集】必要十分な情報を集める
ステップ2:【情報整理】情報をグループ分けする+優先順位をつける
ステップ3:【情報伝達】簡潔に相手に伝える
要約のプロセスがうまくいったかどうかは、最終ステップである「情報伝達」に表れます。 いかなるシチュエーションでも、相手に簡潔かつわかりやすく伝えることができ、その結果、伝え手自身の目的を達成することができる人は、要約力の高い人と言えます。
一方で、「情報伝達」の質を高めるために「伝え方だけ」を何とかしようとしても、うまくいきません。なぜなら「情報伝達」は要約プロセスの一部にすぎないからです。理想的なアウトプットをするためには、要約の3ステップすべての質を高めていく必要があります。
【ステップ1:情報収集】ありとあらゆる方法で必要な情報を集める
要約の第一歩は「情報収集」からスタートします。仮に、あなたがダイエット食品(プロテインシェイク)の営業マンだった場合、以下のような情報収集が必要です。
【ダイエット食品について】
・商品の開発経緯(秘話を含む)
・原材料(生産地など)
・加工方法 ・栄養・含有成分など
・どういう人向けの商品か
・どういう効果があるか
・どの頻度で、どの期間、飲み続ければいいか
・安全性
・リスク
・サポート体制
……など
これらの情報が頭に入っていなければ、的確にアウトプットできません。お客様から質問を受けても、答えに窮してしまったり、しどろもどろになってしまう恐れがあります。食材がなければ料理が作れないのと同様に、情報がなければアウトプット(話す・書く)できません。
情報収集には、ありとあらゆる手法を駆使しましょう。資料やデータをあたる、開発関係者から話を聞く、自分で体験・実験する、お客様の声に耳を傾ける――情報が来るのを待っているのではなく、主体的に情報を取りにいく姿勢が求められます。
【ステップ2:情報整理】サッと情報を取り出せるよう整理整頓しておく
収集した情報は、いつでもアウトプットできるよう整理しておく必要があります。資料がきちんとファイリングされて整理整頓されている状態と、とっ散らかっている状態で、捜し物を見つけやすいのは、言うまでもなく前者です。頭の中もまったく同じで、必要な情報をサっと取り出すためには、インプットした情報を整理整頓しておくことが肝心です。
整理整頓するコツは「グループ分け」と「優先順位づけ」です。たとえば、映画に詳しく、いつでも的確な説明や解説ができる人は、頭の中で映画作品のグループ分けができているはずです。
【映画のグループ分けの種類】
・ジャンル別
・扱うテーマ
・製作国
・キャスト
・監督
・興行収入
・観客(ターゲット)
また、グループ分けした状態で優先順位をつけることもできています。たとえば、クリストファー・ノーラン監督の作品であれば、自分が好きな順に語ることもできれば、ヒットした順に語ることもできれば、一般ウケしそうなオススメ順で語ることもできます。
さらに、「ホラー映画でオススメはある?」「経営者が観ておくといい映画は?」「落ち込んでいるときに観ると元気が出る映画は?」「AIをテーマにしたおもしろい作品は?」など、ありとあらゆる質問に、スピーディかつ明確に答えることもできるでしょう。
しかし、情報の「グループ分け」や「優先順位づけ」ができていないと「えーっと、まあ、映画といっても、いろいろありますからね……。いやー、急にオススメを教えてって言われると難しいなあ……」などと歯切れの悪い返事をすることになるでしょう。
一方、要約力に優れている人は、脳内で情報が整理整頓されているため、そのつど臨機応変にアウトプットすることができます。
【ステップ3:情報伝達】「幹→枝→葉」の順番に伝える
要約力の最終ステップは「情報伝達」です。情報収集も済み、整理もできているのに、伝達で気を抜いては、せっかくの要約プロセスが水の泡です。
情報伝達の基本は「幹→枝→葉」の順に話す、というものです。
【幹】結論・メッセージ
【枝】理由・根拠など
【葉】事例・体験談、やり方などの詳細
たとえば、あなたが企画のプレゼンをするときに「昨今、日本人のライフスタイルやワークスタイルが大きな変化を遂げつつあり、この流れについてこれない会社やビジネスパーソンも多いようです。歴史を見ましても〜」のように、まどろっこしい前置きや背景説明から入ってしまうと、聞く人の興味・関心が薄れてしまいます。
一方、話の「幹→枝→葉」の順で話せる人は以下のような伝え方をします。
「A社の課題である○○への対応策として、弊社のオンラインシステム△△の導入をご提案します。【幹】 御社にはもともと在宅スタッフがいるほか、リモートワークのご実績も豊富です。△△を導入いただくことで、仕事効率と生産性をより高めることができます。【枝】 なお、△△の導入により、スタッフの疲労軽減効果も期待できます。地方の支店用には、あわせてオプション□□をご利用いただくことで、商圏に縛られない事業を立ち上げることもできます。【葉】」
とくに大事なのは話の幹です。あなたが、このプレゼンで一言しか言う権利がないとしたら、一体何を言いますか?
あなたにとっての「死んでもこれだけは言っておく!」が、情報伝達における「幹」です。
冒頭で「オンラインシステム△△の導入をご提案します」と結論(幹)伝えることによって、それ以降の話もストレスなく頭に入ってきます。幹となる結論を真っ先に伝えてから「枝→葉」と詳細を掘り下げていく流れは、要約力に優れた人たちに共通するアウトプットスタイルです。
要約力が強化されると「伝わらない」にサヨナラできる!
どれだけすばらしい専門性や情報や情熱を持っていても、それが相手に伝わらなければ意味がありません。伝わらなければ、仕事効率が下がり、生産性も損なわれます。もちろん、遅かれ早かれ、あなたに対する周囲の評価も下がっていくでしょう。
くり返しになりますが、わたしたちのアウトプット力を下支えしているのは要約力です。「情報収集→情報整理→情報伝達」の全プロセスの精度を高めていくことが、「伝わらないアウトプット」から脱出する唯一の道と心得ておきましょう。
**
「要約の3ステップ」についての詳しい解説は『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』(山口拓朗著)にあります。興味がある方はぜひこちらをお読みください。