一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第29回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、ついつい先延ばしにしてしまう「言いにくいこと」の伝え方について。
言いにくいことほど「善は急げ」
トラブルの報告や断りづらい誘いの返事……「言いにくいこと」を先延ばししていませんか?
「言いにくいこと」は誰にでもあるものです。だからといって先延ばしすることは得策とはいえません。なぜなら、伝える側と受け取る側の双方にとってメリットがないからです。
「『言いにくいこと』は、できる限り迅速かつ明確に伝える」、これがビジネスシーンでの鉄則です。
相手の意向に添えないとき、依頼や誘いを断るとき、ミスやトラブルの報告をするとき――言葉を濁したり、明言を避けたり、事実を歪曲するのは厳禁です。誠意に欠けるのはもちろん、みずからトラブルの種を撒いているようなものだからです。
先延ばし事例1:企画の不採用を伝える
【NGメール】
ご提案いただいていた企画ですが、 ◯◯の再現性があるかどうかを含め、もう少し検討させていただきます。
本当に検討する気があるなら、この文面でも問題はないでしょう。しかし、内心で「企画の再現性が低すぎる。これは却下だな」と思っているのであれば、返事をうやむやにしてはいけません。
【修正メール】
ご提案いただいていた企画ですが、 残念ながら、今回は採用に至りませんでした。
◯◯の再現性が低いという結論に達したためです。
誠に恐れ入りますが、ご理解・ご了承いただけますと幸いです。
このように、不採用の旨を明確に伝えましょう。ただし、断り文句だけでは角が立つこともあるでしょう。修正メールのようにクッション言葉を挟むことがポイントです。クッション言葉とは、ストレートに言うときつくなりがちな言葉の衝撃をやわらげる言葉のことで、この修正メールであれば「残念ながら」や「誠に恐れ入りますが」がそれにあたります。
返事を一度保留したところで、状況が変わるわけではないことは、あなたがよく知っているはずです。それどころか「改めて断りのメールを入れる」という手間が増えるだけです。これほど非効率で不経済なことはありません。なにより、相手に余計な期待をもたせてしまうことになります。
先延ばし事例2:飲み会の誘いを断る
親しい取引先の担当者からの飲み会のお誘いを受けました。断ろうと考えているとき、あなたならどんなメールを書きますか?
【NGメール】
飲み会のお誘いをいただき、ありがとうございます。
11日ですが、まだ予定が見えません。
スケジュールがはっきりした段階で、改めてご連絡いたします。
参加する気がないにもかかわらず、このようなメールを送っていませんか? 思わせぶりな「先延ばし」は相手に迷惑をかけます。また、開催日が迫ってからの不参加表明は、誘った側からするとあまり気持ちのいいものではありません。
【修正メール】
飲み会のお誘いをいただき、ありがとうございます。
あいにく11日は先約があり、参加がかないません。
またの機会を楽しみにしております。
ストレートに「参加しません」と伝えるのは、さすがに大人の所作とは言えません。「あいにく11日は先約があり〜」のように、相手が納得しやすい理由を添えたうえで丁寧に断りましょう。「参加しません」は「参加がかないません」と書くことでソフトになります。
次回以降、参加する気があるようなら「またの機会を楽しみにしております」と伝えておきましょう(参加する気がないなら、書かないほうが賢明です)。
先延ばし事例3:自分のミスの報告
自分が犯したミスの報告はもっとも「言いにくいこと」の一つでしょう。気持ちはわかりますが、先延ばしするほど問題が悪化し、あなたの信用が低下するリスクも高まります。
「言いにくいことを言わない=自分の首を絞める行為」と理解しておきましょう。
以下は、あなたのミスによってクライアント(河野さん)からクレームを受けたケースです。あなたは、その顛末を上司にメールで報告しなければいけません。
【NGメール】
先ほど河野さんから、○○の件で問い合わせのメールが届きました。
少し行き違いがあり、誤解が生じたものと思われます。
明日電話を入れて、もう少し詳しく話を聞いてみます。
歯切れの悪い報告です。歯切れの悪い理由は、「責任逃れ」しようと感じ取られてしまうからです。文面から、自分の責任についてはまったく触れられていません。それどころか、上司が「河野さんが勝手に誤解した」とミスリードしかねません。
【修正メール】
先ほど河野さんから○○の件でお叱りのメールをいただきました。
私の伝え方が悪く、◇◇について△△という誤解を与えてしまいました。
完全に私のミスです。申し訳ございませんでした。
すぐに□□の対応をとり、現在、その処理を進めております。
自分のミスを隠そうとするのは、百害あって一利なしです。「ミスの隠蔽」はミス以上に罪が重い、とも言えます。
逆に、自分のミスを隠さず迅速に報告できる人は、周囲からの信用を得やすくなります。自分の非を認めたうえで、しっかりと問題解決へと導くことができれば、かえって評価を高めることもあります。まさしく「ピンチはチャンス」です。
「先延ばし」という悪しき習慣
「言いにくいこと」を迅速かつ明確に伝えることで(その結果として問題解決が早まることによって)、自分自身の気持ちもリセットしやすくなります。
仮に、1週間ほど先延ばししようものなら、その間、「いつ本当のことを伝えよう」と悩みや問題を抱え続けることになります。これは精神衛生上良くないだけでなく、仕事への集中力も削がれやすくなります。くわえて、新たなミスやトラブルも生まれやすくなり、それでは本末転倒です。
悪しき「先延ばし」は、クセになりやすい習慣でもあります。「言いにくいこと」があるときほど迅速かつ明確に伝える意識を持ちましょう。