一生モノのスキルになる! 『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法<連載第27回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に関する著書も多い山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は、加速するテレワーク化で覚えておきたいビジネスチャットの使い方について。
加速する「メール→チャット」への切り替え
新型コロナウイルスの影響により、世間的にテレワークが推奨され、社内外のコミュニケーションでチャットツールを使う会社が増えてきました。これまで文章によるコミュニケーションといえば、その代表格はメールでした。しかし、突如のテレワーク化や、「Slack(スラック)」や「ChatWork(チャットワーク)」といったチャットツールの充実も相まって「メールからチャットを利用する」の流れは加速するばかり。この先、社内メンバーやプロジェクトメンバーでチャットを利用する機会はますます増えるでしょう。
では、同一部署やプロジェクトメンバー、スタッフ同士でチャットを使うメリットはどこにあるのでしょうか? 一方で、チャットを使うデメリットや、利用する際に注意すべき点はあるのでしょうか? 従来のメールと比較しながら、チャットによる文章コミュニケーションの「良し悪し」を見ていきます。
チャットを使う3つのメリット
【メリット1:高速コミュニケーション】
チャットを使う最大のメリットは「スピード感」です。メールの場合、相手から返信がくるまでに数時間、長ければ1日かかることもあります。一方、チャットなら、テキストの打ち込みやすさに加え、スマホの「プッシュ機能」との連動により、数十秒から数分で返信がくることもあります。リアルタイムでテンポよくやり取りできるため、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)はもとより意思決定のスピードも速まります。その結果、仕事の効率と生産性が高まります。
【メリット2:複数人での情報共有が可能】
チャットでは1対1だけでなく、部署ごとやプロジェクトごとに複数人のグループを作って、スムーズにやり取りすることもできます。メールでも「Cc」を使えば、複数人での情報共有は可能ですが、「Cc」は“念のため情報を共有する”程度の意味合いで使われることも多いため、基本的には「送信者」と「受信者(Toの人)」の1:1のやり取りがメインになります。「Cc」の人たちが好き勝手に「全員に返信」をしようものなら、情報の収集がつかなくなり、仕事の効率を下げかねません。その点、チャットは複数人でのランダムなやり取りにも耐えうるシステムを備えています。
【メリット3:書くことへのハードルが低い】
メールでは、本文の冒頭で宛名を書くほか、自分が何者かを名乗ったり「お疲れ様です」のような形式的なあいさつを書いたりする必要あります。一方、チャットでは、ひと言だけ要件を書いてササっと送るケースも少なくありません。メールのようにかしこまる必要がないため「文章を書く」という心理的負担も軽めです。文章で伝達するというよりも、オフィスで会話をしているようなイメージで捉えている人もいるでしょう。
チャットを使う3つのデメリット
【デメリット1:「重要な情報」や「スケジュール管理」に向いていない】
チャットは次から次へと情報が流れてしまうため、重要な情報を残すには向いていません。たとえば、契約内容や機密情報などを“残す”には不向きです。また、セキュリティの面ではメールに分があります。打ち合わせ日時などスケジュールが絡む案件も、チャットではなくメールでもらいたいという人も多いでしょう。また、件名ごとに振り分けられるメールと違い「ファイリング性」や「検索性」も高くありません。
【デメリット2:考えずにテキストを打ち込んでしまう】
チャットの場合、脊髄反射的に(熟考せず)にテキストを送ってしまう人もいます。たとえば、やり取りの中でカチンときて感情のまま即レスしてしまった結果、チャット上に不穏なムードが流れることも起こり得ますが、メールであれば多少冷静になる時間を取ることもできます。また、気軽にテキストを送れるからといって、とくに連絡の必要がない情報ばかり送る人も煙たがれます。気軽に使えるチャットだからこそ、「書くべきこと」と「書かずにおくべきこと」をしっかり考える必要があります。
【デメリット3:コミュニケーションが砕けすぎることも】
「かしこまった文面」や「相手への気遣いの表現」が多いメールと比べて、気軽にコミュニケーションが図れるチャットでは、言葉も砕けがちです。とくに相手がチャットに慣れていない場合、良かれと思ってフレンドリーなテキストを送ったにもかかわらず、相手を怒らせてしまうことも起こりがちです。とくに、まだ信頼関係が築けていない人とやり取りするときには、相手に失礼と思われないよう、態度と言葉の「砕けすぎ」に注意しましょう。
ローカルルールでトラブル回避
部署内やプロジェクト内でチャットを導入するときは、使い方のルールやガイドラインをある程度設けておくといいでしょう。基準があることで、コミュニケーションが円滑になり、連携ミスや衝突のリスクも低まります。
【チャット利用時のガイドライン設定のヒント】
・チャットを「使っていいケース」と「使ってはいけないケース」
・チャット内で扱ってはいけない情報
・あいさつ文の有無 ・敬語の有無や、敬意のレベル
・土日や就業時間外の利用について
・チャットを使うメリットとデメリットの共有
ツールというのは、いつでも「諸刃の剣」です。賢く使えば、仕事の効率や生産性を高めますが、ひとたび使い方を間違えれば、自分たちの首を絞めることになりかねません。
たとえば「チャットで『了解しました』や『承知しました』というニュアンスを伝えたいときは、すべて『OKです』で統一しよう」――そんな決めごとを設けるだけで、誤解や感情面での衝突を回避できるかもしれません。また、チャットを利用する中で誤解やミスやトラブルが生じたときは、その原因と向き合ったうえで、同じことが起こらないように改善していく必要があります。
ツールである以上、唯一絶対の正解はありません。チャットを利用するメンバー全員が快適に仕事を進められるよう、最善の使い方を模索していきましょう。